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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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※狐の共通ルールは「不利益なことはしない」(黒狸とモルヒネとレノリアとフェンリル)(http://makehermine.nari-kiri.com/Entry/74/)より続いています。



 左手にネクタイを巻いて止血を施した男、ヘイリーがやって来た時、ティーエは驚いた表情で迎えた。
「ヘイリーさんが怪我をされたんですか?大丈夫ですか?」
 いつものようにおろおろとしている彼女に安堵しつつ、ヘイリーは付き添ってきたピンクの髪の青年、モルヒネをちらりと見る。モルヒネはぱたぱたとコマねずみのように走りまわる小さなティーエを興味深そうに目を細めて見ていた。
「そちらの方は初めてですね。とにかく、二人とも座って下さい。」
 椅子が足りなかったので診察台に、モルヒネもヘイリーも特に警戒せずに二人並んで座る。
「僕が痛みをとってあげるって言ってるのにぃ。」
 モルヒネは未だヘイリーに異能を使いたがっているが、ヘイリーは警戒して体をずらした。

 その瞬間。

 撫でるようにティーエの手がヘイリーとモルヒネの膝に触れた。
 ほんの一瞬の出来事だが、鈍痛が走り、膝から下の感覚がなくなる。
「ティーエちゃん?」
「すみません、男の人に暴れられると面倒なので。」
 さらりと言って、彼女はとんっとヘイリーとモルヒネの肩に触れた。骨が動く感触とともに、二人の腕がだらりと垂れる。
「関節を外させてもらいました。ちょっとそのまま待ってて下さいね。休診の札をかけて、鍵かけてきますから。」
 ごく普通の治療のように淡々と言うティーエの琥珀色の目は、全く笑っていない。それに気づいたヘイリーの背中を嫌な汗が流れる。
「ちょっと、彼女、いい感じにクレイジーじゃないですかぁ?」
 両腕と両膝の関節を外されて、動くことが出来ずに、バランスも上手くとれずずるずると診察台の上に倒れていきながら、モルヒネがまだ余裕のある声で言うが、ヘイリーはものすごく嫌な予感を抑えきれなかった。左腕の傷はまだ血が止まっていない上に、外された関節が非常に痛む。
 モルヒネは自分の異能を使ったのか、痛みではなく、快感に顔を歪めているようだったが、ヘイリーはそれどころではなかった。
「お待たせしました。」
「ティーエちゃん、何か、誤解があるんじゃないかな?」
 宥めるように言うヘイリーに、ティーエは小首を傾げる。
「誤解?あなた達が、薄汚いマフィアで、私の大事な弟に手を出そうとしたことですか?それに何の誤解があるでしょう。それと、ティーエちゃんなんて呼ばないで下さい。気持ち悪い。」
 彼女の仕草は幼さすら見えて、狂気じみている。
「君、結構、いいですねぇ。」
 はぁはぁと快感に息を弾ませるモルヒネに、ティーエは太めの手術用の糸のようなものを持ち出した。それを5センチくらいに切って、手の平に握る。
「弟以外の誰にも教えてないし、ご存じないでしょうから、説明しますね。私、手の中に入るものなら、体の中に混入できるんですよ。うるさいのは嫌いなので、声帯を縫わせてもらいます。」
 手に糸を持ったまま、モルヒネの首に手を当てるティーエ。
「動くと間違って気管まで縫いつけちゃうかもしれませんから、気をつけて下さいね。」
 言葉だけは丁寧だが、押さえつける力は丁寧とは言いがたく、モルヒネは口の端から涎を垂らして呻く。
「ティーエちゃん?やめようよ。弟さんの居場所を、教えるから、ね?」
 ヘイリーにティーエは静かな視線を送っただけだった。
「嘘ばかりのマフィアの言葉を、今更信じられると思いますか?大丈夫です、ヘイリーさんも、すぐに静かにさせてあげますから。」
 モルヒネの喉からくぐもったうめき声以外出なくなったのを確認して、ティーエは指先で糸を弄びながら、ヘイリーに聞く。
「それとも、去勢でもした方がいいですか?猫も去勢するとおとなしくなるって言いますよね。」
 ひたりと小さな白い手が股間に触れる。不可視の手が布をすり抜け、肉すらもすり抜け、直に尿道を摘んだ。
「こういうのって、どういう気分なんでしょうね?ねぇ、私が何もできない無力な小さな子どもだと思っていたでしょう。マフィアの仲間さんと、あなたが無力だと思っている私の前で、失禁するなんて、どういう気分ですか?」
 ぐいっと不可視の手が上に動き、膀胱を掴む。刺激されて、ヘイリーは尿意に耐えた。
「ティーエちゃん、やめようよ。」
 痛みと尿意と出血で、背中に冷や汗をかいたヘイリーが声を搾り出すのに、ティーエは目を細める。
「ティーエちゃんなんて、呼ばないで下さいって、言ってるでしょう?」
 もう片方の手が、ヘイリーの首にかかった。不可視の手が気管を直に押しつぶす。
 息が出来ず、白くなっていく視界の中、モルヒネが恍惚とした表情でヘイリーとティーエを見ていた。

「ティーエ先生、いないのー?パフェ食べに行こうよー!」

 外から聞こえてきた声に、ティーエは細めていた目を開いた。そして、ふぅと息をつく。
「今回は、この程度にしてあげます。セレーレさんに、感謝して下さいね。後、その傷の治療は、私はしませんから。」
 あっさりと手を放し、最初と同じように両肩と両膝に触れるティーエ。ヘイリーが終わると、モルヒネにも同じ処置をする。それから、モルヒネの喉から糸を抜いた。
「君、ぜひ、マフィアに入るべきだよ。すごく、いいですよぉ。」
 息を荒くするモルヒネに、ティーエは返事すらしない。二人を追い出して、入れ違いざまにセレーレという少年を迎える彼女は、すでに穏やかな笑みを浮かべたいつもの彼女だった。

「彼女、いつもあんななの?僕、ああいう子、好きだなぁ。」
 うっとりとしたモルヒネに、ヘイリーは疲労感と痛みで答える気力もなかった。

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 ファンクの家で飲んでいた。
 食べる量に関してはお互いいい勝負だが、酒に関しては、ユンファはざると言うよりわくなので、全く酔わないのに、ファンクはある程度飲むと酔い潰れてしまう。自分より重い体を支えながら、寝室のベッドに投げ込んで、ふと、ユンファはファンクのふさふさの尻尾を撫でる。その付け根がどうなっているか知りたいと思ったのは、純粋な好奇心からだった。
 けれど、脱がしていくうちに、なんとなく、上半身も脱がしたくなり、銭湯で鍛えた脱がしスキルを駆使して、どうにか裸にする。力の抜けた自分よりも大きな体を剥くのは少し手間取ったが、それでもやり遂げてユンファは満足のため息をついた。もさもさとした毛は背中にも生えていて、ユンファはそれをゆっくりと撫でる。寒いのか、ファンクは身を縮こまらせた。犬のそれに似た耳に触れたくなって、見を乗り出したところで、ぱちりとファンクの目が開いて、ユンファの目としっかりと見合った。
 全裸のファンクに覆いかぶさる形のユンファ。
「う、ええええええええええ!?」
「どうかしたかい?」
 きょとんとしたユンファに、ファンクは押しのけようとユンファの腕を掴んだ。ユンファの体を支える手が滑って、全裸のファンクの上に倒れこむ。
「どど、どうかしたのじゃ、ないだろう!なんなんだ、これは!」
 言われて、ユンファはファンクの胸に手をついて少しだけ体を離して、小首を傾げた。
「なにって……そうか!そうだね!そういうことか!」
「脱がしてから気付くなぁ!!!!!!!」
 盛大なツッコミを入れたファンクの男性器を、ユンファは無造作に掴む。
「むぎゃ!」
「これ、どうすれば、いいんだい?」
「やあああめええろおおお!!!!分からないのに掴むな!」
 本気で押しのけられて、ユンファはベッドの下にぽとんと落ちた。全裸のまま、ファンクはユンファを小脇に抱え、大股で扉の方に向かっていって、そのまま投げ捨てた。
「俺は、お前をそういう対象に見ないからな!」
 通りに投げ捨てられて、ユンファはしばらく、呆然と座り込んでいた。


「何が、悪かったんだと思う?」
 天井から落ちる雫を受けながら、早朝の一番風呂で話を聞いたレノリアは、どう反応していいのか分からなかった。これが恋愛相談なのか、そうでないのか、最早分からない。
 けれどしゅんとしたユンファの様子はいつもと違って、レノリアは戸惑う。
「嫌われた、かな?もう、尻尾に触らせて、くれないのかな?」
 ぽたりと湯の中に雫が垂れた。続いてぼたぼたと目からこぼれ落ちていくユンファの涙に、レノリアは焦った。
「ユンファ、急にだったから、ファンクも驚いたと思うの。それに、その……アプローチもよくなかったかも。」
 言ってから慰めになっていないと、落ち込むレノリア。どうしてこういうとき、自分は上手な言葉が出てこないんだろうと、悔しくなる。
「そうか……。」
 ぼろぼろとこぼれる涙は、どこか潔かった。鼻水を啜りあげて、ユンファは手の甲で涙を拭う。
「ごめんね、変なこと、聞いて。」
 でも、聞いてくれて嬉しかった。
 唐突に腕を伸ばして、湯の中で裸でぎゅっと抱きしめられて、レノリアは驚く。濡れた褐色の肌は滑らかで意外に柔らかい。
「レノリアは、やっぱり、私の一番の友達だよ。」
「えぇ、そうね。」
 子どもを宥めるように、ユンファの濡れた髪を、レノリアは撫でた。


 鍵を開けて家に戻るや否や、兄が駆け寄ってきた。うっとうしく変化をじろじろと見つめてくる兄に、レノリアは「ただいま。」と素っ気なく言う。
 兄、ヴァンは口うるさく言ってくる。
「マフィアなんて、危険な仕事、どうして……。」
 言いかけて、ヴァンはじっとレノリアの顔を見た。
「何か、あったか?」
「何も、ないわよ!」
 思わず、早口で強く答えてしまって、レノリアは口を閉じる。抱きしめた感触が、まだ残っている。
 暖かいがっしりとした、それでいて女性に間違いない体。
「何も、ないわよ?」
 強調するようにもう一度言うと、手を掴まれた。
「絶対に何かあった。ちょっと、こっちに来るんだ。話をしよう。」
「何もない!放して。」
 素っ気なく言って、レノリアは自分の部屋に足早に向かう。その頬が紅潮していたかどうかは、薄暗い廊下では分からなかった。

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 考える前に、体が動いていた。
 幸いにもそこは人通りのない路地裏で、幼い少年は大きな水槽を必死に手押しの荷台に乗せて運んでいた。綺麗に舗装されていない石畳に、車輪が引っかかって、奇妙なグロテスクな魚の骨の入った水槽が傾く。
 割れると思った。しかも、少年の方に向かって。

 躊躇うことなくルリエナは駆け寄り、少年を抱きとめていた。ガラスの砕ける音と、体に振りかかる塩分の混じった水。
 しっかりと抱きしめていたため、少年はガラスで体を切ることはなかった。ルリエナもウロコが体を守ってガラスを弾いている。
「あ……だ、大丈夫?ごめん、気味が悪いよね。」
 必死に濡れた手でウロコだらけの顔を隠そうとしたら、少年は目をきらきらさせてルリエナを覗き込んできた。
「きれーい!かっこいい!」
「え?」
「お魚さんみたい!」
 ぎゅっと抱きつかれてルリエナは困惑する。
「とにかく、片付けて、早いとこ、屋内に入らないと。」
 言いはするものの、緊張で手が震えて、水かきのある手の平を、ルリエナは拾った大きなガラス片で切ってしまう。
「大丈夫?お魚さん?」
「僕はルリエナ。」
「僕はまりもだよ。」
 お魚と呼ばれたくなくて、必死に抵抗するルリエナに、まりもはにっこりと微笑んだ。
「ウロコもヒレも水かきも、すっごくきれい。水槽で飼いたいくらい。」
 恐ろしいことを言う少年の部屋は、水槽だらけで、ルリエナはぞっとして倒れそうになる。それでも、義務感が先に立った。
「怪我はなかった?」
「うん、ルリエナさんのおかげで。」
 無邪気なまりもは非常に可愛い。それでも、ルリエナはこの空間に耐えられそうになかった。
「じゃあ、僕は、これで。」
「行っちゃうの?」
 悲しげな大きな瞳に、ルリエナは戸惑う。
「ごめんね、仕事があるし、ここだと、いつまで経っても元に戻れない。」
 言いながら、ルリエナはどうすればいいか考えていた。
 今にも倒れそうな気分である。

 助けて欲しい。
 誰に?

 シャツをかぶって顔を隠しながら、ルリエナの足は自然とある場所に向かっていた。
 いるはずがない。
 それなのに。

「どうした、ルリ先生?」
 赤い髪の男がタバコをくゆらせている。
 寄りかかってはいけない。頼ってはいけない。
 けれど、ふらりとルリエナはその肩に、こつんと額を乗せていた。
「気分が、悪くて、どこにも、行き場がなくて。」
 細い声に、くしゃりと男が髪を撫でる。
「じゃあ、俺のところにくればいいだろう?」
 その声に安心して、ルリエナは目を閉じた。

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「一人、お願いします。」
 それは、珍しく若い女性の声だった。番台に座っているユンファが金を受け取っているのに、キーリは落ち着かない素振りで背伸びをした。可愛らしい顔立ちの少女がのれんをくぐっていく。
「何、見てるんだい?」
 じろりと睨みつけるユンファの機嫌はよくない。今日は仕事でガラスの中の液体を加熱しすぎて、ガラスを割り、ごつい割に唯一といっていい美点の脚を切ったらしいのだ。
 風呂場も点検するのでいつもホットパンツに素足のユンファだが、今日は左足の脛に包帯が巻かれている。
「チビ先生のところで診てもらったんだけどねぇ。液体も傷口に触れてるから、しばらくは外せないし。」
 ぶつぶつと文句を言うユンファは、脚を撫でて憂鬱顔だった。

 今なら覗ける!

 キーリの本能が体を動かした。
 ぼんやりしているユンファの前をそーっと通り過ぎ、女湯の方へ。
「ちょっと!」
 むんずと襟首を掴まれた時、キーリは死を思った。
「何やってるんだい?」
「いや、姐さんが怪我してるから、女湯のタオル交換に……。」
「行っていいと、思ったのかい?」
「い、いいえ。」
 しゅんと頭を下げたキーリに、女湯でロッカーにポシェットを詰めていた少女が気付いた。
「なに!?この銭湯、覗きがいるの!?」
 最低!と叫ぶ彼女に、キーリが慌てる。ユンファは落ち着いて、キーリの頭を三発殴った。きゅうとキーリがその場にのびて倒れるのを、ぽいっと外に放り出す。
「今日は晩ご飯なし!明日の朝の掃除まで、戻ってこなくていいからね!」
 言い捨てて、ユンファは脚を引きずりながら少女の方に向かった。少女はロッカーの鍵を開けて、中身を取り出そうとしている。
「冗談じゃないわ、覗きが出る銭湯なんて!みんなに言いふらしてやるんだから!ネットでも流すわよ!」
 怒り狂う彼女の手に、ユンファはフルーツ牛乳を握らせた。
「今日のところはこれで。後で、パフェ、おごるから。」
 女性ならば皆くらりとくるであろう、パフェの一言に、少女の目が輝く。
「パフェ?本当?メガ盛り頼んでいい?」
「どうぞ、ご自由に。」
 静かに答えたユンファの手を、彼女はぎゅっと握った。
「私、ラーク。あなた、いい人ね。私、絶対、この銭湯のこと、悪く言わないわ。ホントよ。約束する。」
 飛び跳ねて喜ぶラークに、ユンファは生ぬるい笑みを浮かべた。

 もちろん、パフェの代金は、キーリの給料から引く計算である。

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「アンタ、それ。」
 声をかけられて、ルリエナはビニール袋に入れたリンゴを受け取る手を止めた。青紫色の髪の女性が、野菜屋のリンゴを片手に顔をしかめていた。
「これ、腐りかけてるよ。そっちも同じようなもんでしょ?」
「な、何を!?」
 文句を言おうとして、野菜屋の店主は相手が袖はないものの軍の制服を着ていることに気づいて口ごもる。
「こういう劣悪品を売る奴が、一番、許せなくてね、アタシは。ほら、アンタ、金返してもらいな。」
 渋々金を返す店主に申し訳なさそうな表情を向けてから、ルリエナは女性に近付いた。
「ありがとう。こういうのには、不慣れで、全然分からなくてね。」
 礼を言うと、彼女は身長の割に細いルリエナの手首を掴む。
「アンタ、ちゃんと食べてるの?」
「え?食べてるよ。買ったもの、ばかりだけど。」
 水がこぼれたりしてかかると困るので、店内で食べることはほとんどせず、持ち帰りのジャンクフードを少し食べるだけのルリエナは、身長の割に体重が非常に少なかった。せめて何か食物繊維を取ろうと思って珍しく野菜屋に寄って買おうとしたリンゴ。それが腐りかけていたなんて。
 例えそうであっても、ルリエナは一度受け取った品物に文句をつけたりはしなかっただろう。だから、彼女は恩人のようなものだった。
「僕はルリエナ。変な名前だけど……。」
「ナキカスリ!アンタが変な名前なら、アタシはどうなるのよ!」
 ちょっと怒ったような口調に、ルリエナは戸惑ってしまう。
「ナキカスリ、ちゃん?」
「ちょっと、ちゃんとか!?」
 真っ赤になって慌てるナキカスリに、ルリエナはふっと笑ってしまった。むっとした表情だと軍の怖い印象が付きまとうが、慌てた赤い顔は歳相応で可愛い。
「お礼に何かおごりたいけど、こんなおじさんは、嫌かな?」
 ちょっと躊躇いつつルリエナが申し出ると、ナキカスリは腰に手を当ててため息をついた。
「嫌も何も、お弁当持ってるし。ていうか、ご飯食べたの、アンタ?」
 言われて、ルリエナは薄い腹を押さえる。シャツの下の薄い腹は、空腹を訴えていた。
「そう言えば診察が忙しくて、食べてない。」
 時刻は昼過ぎ。朝に急患が運び込まれたので、朝も何も食べていないルリエナの腹が、急に鳴り出してルリエナは赤くなる。
「何か作ってあげるから、材料、買って、行くわよ、アンタんち。」
 何か体の奥底が痛んだような気がした。

 物心ついてから、ずっといろんな場所を転々として、父親と露店のものばかり食べていた。
 研究所に囚われてからは、固形のレーションを食べさせられた。
 研究所から出てからも、自分で作るなどという考えは全くなかった。

 痛んだ場所から、暖かいものがあふれてくるような気がして、ルリエナは切なく微笑む。
「ありがとう。」
「その年で野菜の買い方も知らないなんて、ホント、信じられないわ。」
 文句を言いながら、ナキカスリはルリエナと一緒に他の野菜屋で野菜を買い、肉屋で肉も仕入れ、豪華ではないが家庭的な料理を作ってくれた。
「君、よかったら、僕に料理を教えてくれないかな?」
 帰りがけにナキカスリを送りながら、ルリエナは思い切って聞いてみる。野菜を洗う程度の水ならば、ウロコは出ないだろう。
「いいけど、アタシはスパルタだよ。」
 ルリエナの顔を見ないまま、ナキカスリは答えた。
 彼女の青紫の髪は、父親を思い出させた。

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