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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 深い紅の不思議な衣装を纏った女性の姿に、ティーエは足を止めた。彼女のことをどこかで見たことがあったような気がしたのだ。艶のある黒髪におっとりとした目。とても美しい少女のような女性だ。
「あら、ティーエ先生。」
 先に相手から声をかけられて、ティーエは相手のことを思い出す。先日、古書店で本棚の整理をしていて、倒れた本棚で足を挟んだキリシュに付き添ってきたのは、確か彼女だった。
「えーっと……カゴネさん、でしたっけ?」
「はい。あの時はお世話になりました。」
 丁寧に頭を下げるカゴネに、ティーエはとんでもないと手を振る。
「ルリエナ先生の診療所が休診だったから、来て下さったんでしょう?大したことがなくてよかったです。」
「えぇ、先生のおかげですわ。」
 言いながら歩く彼女が数冊の本を持っているのに気付き、ティーエは聞いてみた。
「カゴネさんのお店って、医学書なんかも、置いていますか?」
「数は少ないですが、ございますよ。」
 その答えに、ティーエは顔をほころばせる。
 医者として資格をとる前に大学を休学したティーエは、実戦で鍛えているが、知識不足は否めなかった。そのため、いつも勉強しているのだが、その本代も馬鹿にならない。ティーエの診療所に通ってくる患者の全てがきちんと代金を払ってくれるわけでもなかったし。
「よろしければ、寄っていかれませんか?」
 誘われて、ティーエは二つ返事でついていった。

 学術書を手に入れてほくほくと嬉しそうなティーエだが、ふと自分の薄汚れた服とカゴネの美しい衣装を見てため息をもらす。血やいろんなもので汚れる青いシャツは、洗濯しすぎてごわごわになっていた。
「カゴネさんの衣装、とてもきれいですね。すごくお似合いです。背も高いし、羨ましいです。」
 ぽつりとこぼすと、カゴネが目を丸くした。
「私、背が高いなどと言われたのは初めてですわ。嬉しい。」
 ふわりと微笑む彼女はとても可愛らしくて、小柄で童顔のティーエは眩しく思ってしまう。がさがさに手も荒れて、寝不足で眼の下に隈のできた、みすぼらしい痩せた小さな自分。
「よろしかったら、ティーエ先生も着てみられませんか?きっとお似合いになると思いますわ。」
 カゴネがいそいそと奥に向かった時、ティーエは何を言われているか分からなかった。けれど、美しい布で作られた衣装を持ってカゴネが戻ってきたのに驚き、両手を振る。
「に、似合いません。私、チビだし、胸もないし、痩せてるし!」
「いいえ、きっと似合うと思いますわ。騙されたと思って、一度だけ、お召しになりませんか?」
 カゴネの声があまりにも優しかったのと、その衣装があまりにも美しく魅力的だったので、ティーエはついに負けて、カゴネと共に店の奥に入った。
「これは、着物と言いますのよ。東の国の衣装ですわ。」
 桜色の生地に薄紅の花が散った着物を着つけてくれるカゴネ。オレンジの帯につややかな黄緑の帯紐を巻かれた姿を見た瞬間、ティーエは泣きそうになった。

 ティーエの両親はいつも、青や水色系統と、赤やピンク系統の二種類のものを買ってきた。服も玩具も縫いぐるみも。
 ティーエとフェンリルはそれらを話しあって分けていた。
 フェンリルが赤やピンク系統、ティーエが青や水色系統をとるのがいつものことで、喧嘩などしたことは一度もなかった。

 今、纏っている桜色に薄紅の花の散る着物は、フェンリルのとるべき色彩で、けれど、確かにカゴネの言う通り、自分に似合っている気がして、ティーエは確かにフェンリルと自分が双子だという事を再認識して涙ぐんでしまったのだった。
「いかがなさいました?苦しかったですか?」
 慌てるカゴネに、ティーエは泣きながら笑顔を作る。
「ごめんなさい。嬉しくて。ありがとうございます、カゴネさん。私、着てみてよかったです。」
 ふわりと抱きつくと、カゴネは花の香りがした。

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 雨は嫌いだった。
 雨は水だし、レインコートを着ても傘を差しても、全部は避けられない。少しくらいなら大丈夫だけど、どしゃぶりの雨に濡れるとルリエナは本性である人魚の姿に戻ってしまうので、それが嫌だった。
 しかし、数日振り続く雨に診療所に閉じ込められてしまうと、料理のできないルリエナはあっという間に食糧難に襲われてしまう。
 仕方なく、レインコートにレインブーツ、傘という重装備で食料調達に近所のスーパーの閉店時間ぎりぎりを狙って、もしアクシデントが起きても暗闇に紛れられるようにと出かけたルリエナは、食料品を買い込んだ帰りに、白いものが視界をよぎった気がして目を瞬かせた。街灯にもたれかかって、何か白いものが動いている。
 それが人間だと分かるのに時間がかからなかった。
 真っ赤な血のついた白いワンピースを着た、びしょ濡れの青い髪の女性。靴も履いていないその足は、ウロコのびっしりと生えた人魚のそれだった。
 二つ足の人魚。
 ルリエナとは氏族が違うが、聞いたことのある珍しい種類の人魚を目の当たりにして、ルリエナは驚きつつも、声をかけずにはいられなかった。
「君、大丈夫?」
 ふっと、宝石のような目がルリエナを映す。
 しかし、すぐにそれは光を失い、彼女はルリエナの腕の中に倒れ込んできた。

 これが、ルリエナとヴィーラとの出会いだった。

 長年色んな飼い主のところを転々としながら飼われてきたという彼女は、最後の飼い主を殺して逃げて来たのだという。
 あっけらかんとした彼女の態度に、ルリエナは逆に痛みを感じた。
「ルリが泣くことはないんだ。私は大丈夫だから。」
 強く美しくたくましい二本足の人魚は、ルリエナの体を軽く抱きしめて言う。
「君が泣かないから、僕が泣くしかないんだよ。」
 涙を拭い、ルリエナは自分よりも小さな体を抱きしめ返す。
 愛情も同情もない。
 ただ、純粋な名前のつけられない感情が二人の間にはあった。
「私はヴィーラ。自分で名前をつけたんだ。悪くないだろう?」
 微笑む彼女は堂々としている。
「君はきれいだよ。」
 ルリエナは彼女の艶やかな青い髪を撫でた。

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 その日、アニュスが命じられた仕事は、本人にとってはかなり不本意なものだった。マフィアのボスの逃げた猫を探せなど、この広い異邦人街でどうやって見つければいいのか。
 手がかりは少ない。白地に黒ぶちで、赤い首輪をつけていること。
 他のマフィアの人員も猫探しに駆り出されていたが、面倒くさくなったアニュスは公園に入って一休みしようと思った。その時、目に飛び込んできたのが、まさに白地に黒ぶちで赤い首輪をつけた猫を抱いている、灰色の髪に琥珀色の目、赤いパーカーの小柄な青年、フェンリルだったのだ。
「お前、その猫を渡せ。」
 最初の一言が、まず悪かった。
「はぁ?何言ってるんだ?これがお前のだという証明書でもあるのか?」
 返された言葉も決していいものではない。
 即座に二人は理解し合った。こいつとは分かり合えないと。
「いいから渡せよ!その猫はな、ものすごい方のものなんだ!」
「いかにも嘘つきそうなちゃらいマフィアに渡せるか。」
 気がつけば、わらわらとフェンリルの足元に猫や犬や鳥が集まってきて、アニュスを威嚇していた。アニュスも負けじと目をぎらつかせる。
「誰がちゃらいマフィアだ。このチビ!」
「誰がチビだ!童顔!」
「なんだと!」
 銃を抜きかけたアニュスの腕に、フェンリルの腕から飛び出した猫が噛み付いた。
「うわっ!?」
「はははっ!やっぱり警戒されてるじゃねぇか。どこが飼い主なんだよ?」
 噛み付いた後満足そうにフェンリルの足元に戻る猫に、アニュスは思わずフェンリルの小柄な体に飛びかかりかけた。しかし、足元の動物たちが噛み付き、引っ掻き、邪魔をしてくる。
「生意気なチビガキめ!死にたいのか!」
 ついにアニュスが銃を抜こうとした時、フェンリルの動作がぴたりと止まった。猫が集まっているのをじっと見ているのは、確かアニュスと同じマフィアの黒狸という男だっただろうか。
「あいつ……殺す!」
 もうアニュスには興味がないとばかりに、そちらに突進していくフェンリル。置いていかれた猫は、手の平を返して、にゃーんと可愛くアニュスに擦り寄ってきた。
「なんなんだ、あいつは。」
 呆れながらも目的の猫を抱き上げる。
 フェンリルは黒狸を追って走って消えていった。

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 そのうさぎさんがやってくるのは、月に数回、決まった日だった。
 どこかに偵察に行っているというその人物は、いつもうさぎのお面を被ってマフィアの本部にやって来た。研究室から出てきたユンファが初めて彼を見た時、思わず口走ってしまった。
「なんだい、その狂った格好は?」
「うるせぇな、ババァ。その年で脚を出してるあんたの方が狂ってるよ!」
 軽快に即座に言い返されて、ユンファは楽しくなってしまう。
「よくそんな格好で歩けるもんだね。神経を疑うよ。うさぎさんだよ、うさぎさん。ほら、みんな見ておくれ。うさぎさんが悪態ついてるよ。」
「きたねぇ顔で生きていけるあんたこそ、神経疑うな。」
「可愛い可愛いうさぎさん。お名前はなんていうんでちゅか?」
「うわっ!キモイ!このババァ、赤ちゃん言葉なんか使いやがる!」
 その日、ユンファは心の底から笑い、突っかかってくるうさぎさんが大好きになった。

 リョン・ユンファは実のところ、可愛い物が好きだ。特に小動物が大好きだ。小さい頃学校で飼われていたうさぎなんか、食べたいくらい好きだった。

 そのうさぎさんがロッペゴという名前だと知ったのは後のこと。
 ユンファは今日もレノリアのところに駆けて行って聞く。
「うさぎさんが次来るのはいつだっけ?」
「ロッペゴのこと?報告に来るのは……明後日よ。」
「ありがとう、レノリア。大好き。」
 ぎゅっとレノリアに抱きついて、スキップして研究室に戻るユンファを、レノリアは複雑そうに見送る。

 ユンファがロッペゴの傷のことを知ったのは、同僚の噂話からだった。一度銭湯に誘おうと思っていたが、それを聞いてユンファはすっぱりと諦めた。
 悪態をつこうと、言い争いし合おうと、ユンファは人の欠点を抉るようなことはしたくないし、何よりも、うさぎさんはうさぎさんだから価値があるのであって、脱いでしまえばうさぎさんでなくなるのだ。
「お、来た来た。うさぎさん。今日も小さいねー。ちゃんと食べてるのかい?」
「てめぇがでかすぎるんだよ、ババァ!行き遅れで、でかくて、真っ黒で、醜いババァだなぁ。」
「相変わらず良く動く口だね。そんな口には、これでも入れときな。」
 銭湯から持ってきたコーヒー牛乳を渡し、ユンファは満足げに胸を張る。
「牛乳でも飲んだら、ちょっとは背が伸びるかもしれないしね。」
「あんたこそ、胸が育つように飲んだらいいんじゃねぇか。まぁ、手遅れだろうけどな。」
 今日も軽口を叩き合う二人。
「今度、銭湯に遊びに来なよ。入らなくていいからさ。コーヒー牛乳の余りを上げるよ。」
「けっ!誰がババァのいる銭湯になんか行くかよ!」
 そう言って報告に向かううさぎさんの背中を、ユンファはうっとりと見送った。

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 白と黒の双子が番台に座るユンファに小銭を渡した時、ユンファはいつものように男湯と女湯を見張っていた。男湯の方ではキーリがせっせと濡れた足ふきマットを取り替えている。
「お嬢さん、艶やかな美しい肌の色だね。」
 目がチカチカするような色んな色が混ざった服を纏っている黒髪の方が軽く声をかける。
「風呂に入りに来たんじゃないのかい?」
 胡乱なものを見る目つきのユンファに、黒髪の男はにっこりと微笑んだ。
「美しいものを見逃せるわけがないよ。」
「サイガ、入らないの?」
 白い髪の男の方が立ち止まっている黒髪の男、サイガに声をかけると、サイガは「トウガは先に入ってていいよ。」と軽く言った。
「なになに?また何か見つけたのか?」
 にこにこと笑っているような表情で近寄ってくる白い髪の男、トウガもユンファを見上げる。
「確かにきれいな脚だなぁ、お嬢さん。」
「私はお嬢さんじゃない。客じゃないなら、帰ってくれないか。入り口を塞がれると邪魔なんだよ。」
 そっけない素振りのユンファに、サイガが身を乗り出す。
「美しい脚に、花でも咲いていたらいいのに。」
 さぁっとユンファのホットパンツから伸びる長い素足に、蔦が絡まるように模様が走り、花の絵が描かれた。それを見て、トウガが手を叩いて喜んだ。
「これはいいね。」
「何をした!さっさと元に戻さないと、蹴りだすよ!」
 きつい口調のユンファに、サイガが肩をすくめる。
「つれないお嬢さんだなぁ。」
「じゃあ、今度一緒に食事にでも行こうよ。」
 あまり似ていない双子の口から漏れる言葉に辟易して、ユンファは躊躇うことなく二人を男湯の方に蹴り入れた。
「キーリ!こいつらをお湯につけときな!」
 蹴られてつんのめりながら脱衣所に入った二人は、まだくすくすと笑い合っていた。
「お湯の色を変えるのはどうかな?」
「さっきのお嬢さんに怒られちゃうよ。」
 楽しげな二人を見ながら、どうかこれ以上ユンファを怒らせないでくれと願うキーリだった。

 とばっちり、怖い。(キーリ談)

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