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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 不届きものは二人組だった。ギルドの本部に入り込もうとするなど。
 一人は確実に銃とナイフで追い払って、その行き先を野良犬に確認させたが、もう一人を逃したかもしれないとギルドの本部前の通りを走るフェンリルの目に、赤い髪の小柄な少女が目に入った。追いかけていたもう一人を蹴り飛ばし、追い払っている。
 一人目を追い払って確認までして戻ってきた野良犬を撫でて、ポケットからジャーキーを取り出してちぎって上げながら、フェンリルは少女を見た。犬のような耳と尻尾。恐らくは獣人だろう。
「逃したかと思った。助かったよ。」
 年下の自分より小さな相手に威嚇する趣味のないので、フェンリルが素直にいうと、少女はむっつりとして頷いた。
「アタシの仕事だから。」
「じゃあ、あんたもジンクロメート団か。俺はフェンリル。実践部だ。」
「アタシは棗。同じだよ。」
 どこかぎこちないような、むっつりとした少女にフェンリルは少しだけ考えた。足元には野良犬がじゃれついている。
「その犬と同じだ。アタシは、犬。優秀な番犬。それでいいんだ。」
 反論を許さない確固とした口調に、フェンリルは肩を竦める。
「犬は大変だぞ。玉ねぎ食べられないし、香辛料駄目だし。上手いものが食えなくなる。」
 言いながら、フェンリルはポケットの小銭を出して、近くの売店でクレープを二つ買った。そして、手招きして棗を植え込み近くのベンチに誘う。
「甘いものも、食べられない。はい、イチゴとバナナ、どっち?」
 強引なフェンリルに棗は目を丸くしたが、小さく答えた。
「イチゴ。」
 手渡されたクレープを齧る棗をフェンリルは野良犬に餌付けするような気分で見つめる。
 犬じゃない。
 決して、自分を犬だなんて意思を捨ててはいけない。
 例え、何があろうとも。
 それはきっと、姉が言ったであろう言葉。どうして口をついて出たのか分からない。
 クレープの生地の部分を野鳥に分けながら、フェンリルもそれを齧った。
 チョコバナナクレープは、生クリームたっぷりで甘かった。

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 両手ではとても足りなかった。ティーエの能力は手のひらを媒体にしている。この小さな手のひらの範囲しか干渉できないのだ。しかし、ナイフで切り裂かれたその人物の傷は多くて、浅い傷だが混乱してしまった。
「誰か、助けて下さい!」
 思わず口にしてから、ティーエは涙目になる。ここは人通りの少ない場所だし、もし人が通っても怪我人と、医者とはとても見えない自分では、助けてくれないだろう。フェンリルを探すために入り込んだ狭い路地で、ティーエは怪我を負っている青年に出会ったのだ。
「た、大した、こと、な、ないから。ね、泣かない、で?」
 逆に慰められて、ティーエは困り果てた。
「浅い傷でも、これだけあると、出血量で倒れますよ。男性は女性よりも出血のショックに弱いんです。」
 理を解こうとしても、青年はきょとんとしていた。黒髪に黒い目の青年だ。恐らくはマフィアだろう。けれど、怪我人にマフィアも民間人もない。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
 覗き込んできた青銀の髪の少年の肩には、鮮やかな色の孔雀が止まっていた。くるくるふわふわとした髪が可愛い、少女のような少年。
「助けます。泣かないで?」
 そう言って少年は歌い出した。空気を震わせる美しいボーイソプラノ。それに伴い、青年の傷が癒えて行く。
「血が止まってる。今のうちに診療所に来て下さい。あなたが怪我をしたら悲しい人が、絶対にいるはずだから。」
 真剣なティーエの琥珀色に目に、青年は気圧されたようだ。
「は、はは、はい。」
 少年の歌声と共に、三人は診療所に向かった。

 青年の傷は派手だったが、本人の申告通り、酷くはなかった。太ももを走る裂傷と、胸の傷、腕の傷も、広いが浅い。
 全て止血して包帯を巻くと、ティーエはほっと息を吐いた。そして、笑顔で青年と少年にココアを渡す。
「もう大丈夫ですから。しばらくは、安静にして下さいね。」
「あ、あん、せい?仕事、仕事、しては駄目?」
「傷が開かない程度なら。」
「は、はい。ありが、とう。」
 子どものように微笑む青年に、ティーエは安心させるように笑顔を見せた。
「あの、ありがとうございました。私はティエンリー。ティーエって呼ばれてますけど。すごく助かりました。」
 少年に頭を下げると、少年はふるふると首を降った。
「ティーエさん、役に立てて良かったです。ココア、おいしい。ありがとう。」
 無邪気に微笑む少年を、ティーエは思わず抱きしめてしまう。ティーエの方が小さいので抱きつく形になってしまったが。
「いいえ、本当に、助かりました。心細くて。」
 弟を探して一人歩き回る異邦人街。心細かったことに、ティーエすら気付いていなかった。
「ティーエさん、大丈夫ですよ。大丈夫。」
 少年の言葉にティーエは顔を上げた。
「僕はセレーレです。また、何かあったら…ううん、何もなくても、またココアを飲みに来てもいい?」
「ぼ、僕も、い、い?」
 青年も声をあげて、ティーエは当然、頷いた。

「もちろんです。」

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 しっかりと片腕にギブスを巻いて固定している客が男湯に来た時、入れるのかとユンファは少し気にかけたが、少し遅れて友達らしき背丈格好のよく似た青年が入ってきたので声をかけなかった。
 二人は慣れた様子でユンファに金を払う。毎日のことなのであまりよく見てもいないが、常連なのかもしれない。
 そんなことを思いながらユンファは受け取った、体温の残る小銭の数を何度も数え直した。

 ファウストのギブスが邪魔で服の脱ぎ着がしにくいのを、環が手伝う。それは別に日常のことだった。銭湯の脱衣所で環がファウストのしゃつを脱がせていると、常連のよぼよぼとした爺さんたちが「仲良しの兄弟だの。」「双子かね?」などと声をかけてくる。
 髪の色は水色にも見える薄緑の環と、黒のファウストだが、背丈格好はどことなく似ていて、年寄りには兄弟にも見えるのだろう。
「双子…?」
 剣呑な声が漏れたのは、銭湯の入り口、靴を脱ぐスペースからだった。
「どこが双子だよ。全然似てない。てか、てめぇら、ホモなの?ベタベタベタベタ、くっついて。気色悪い。一緒の湯に入らないで欲しいね。病気でもうつったらどうしてくれるんだ。」
 一気に吐き捨てたのは、環とファウストと同じ安アパートに住んでいる、時々見かける人物だった。
「なんだよ、うるせぇな、チビ!」
 決して環も背が高くないが、更に小柄な灰色の髪に琥珀色の目の青年に言い捨てると、彼は明らかに激昂した。
「だれが、チビだ、誰が!俺はフェンリルっていう名前があるんだよ!アパートでも銭湯でも、ベタベタベタベタくっつきまわってやがって、気持ち悪いんだよ!」
 双子、仲がいい、そんな単語に加えて、チビが最終的にむかつき度をマックスにした様子のフェンリル。
「突っかかってくる奴の方が悪いんだって。馬鹿馬鹿しい。相手にしなくていいよ、環。」
 あっさりというファウストにフェンリルはずかずかと近付いた。
「あんたら、マフィアだろう?最低の人間だ。闇の仕事に手を染めてる。俺は、あんたらみたいなのに、街を仕切らせたりしない。そのうち、勝つのは俺だ。」
 俺には守りたいものがあるから。
 決して触れられなくても、それでも、大事に大事にしたいものがあるから。
 飲み込んだ言葉は環とファウストには届かない。

 刹那。

 がつんっ!
 フェンリルの頭にユンファの拳が降ってきていた。
「銭湯での喧嘩はご法度だよ!施設壊したら、割り増し請求するからね!」
「いてぇじゃねぇか、このデカ黒女!」
「チビっこ。アソコまで貧相だって言いふらされたかなかったら、黙って風呂していれ!」
 即座に言い返したユンファに、舌打ちしてもそもそと脱ぎ始めるフェンリル。その目がぎらぎらとファウストと環を睨んでいる。
「気にしないでおくれ。それより、怪我、大丈夫なのかい?よかったら、これ、使いなよ。湯にギブスが触れちゃ駄目だからね。」
 大きなビニール袋を手渡すユンファに、ファウストが軽く頭を下げ、環が「どうも。」と素っ気なく言う。

 銭湯での喧嘩はご法度です!

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 その色彩は、体の奥底の嫌な記憶を引っ掻いた。
「でかい体で邪魔なんだよ!」
 考えるより先に足が動いて、フェンリルは自分よりはるかに長身の青年の脛を蹴飛ばしていた。ギルドの本部の食堂は昼をかなり過ぎていて、空いていた。そんな中、ぼーっと突っ立っている黒髪に茶色の目の優しげな顔立ちの青年は、フェンリルが座ろうと思っていたいつもの隅の席に向かうのにとても邪魔だったのだ。
 丼を乗せたトレイを持ったまま睨みつけるフェンリルに、蹴られたことに抗議するでもなく「す、すみません。」と謝ってしまう彼。その姿はますます誰かを思い出させる。
 自分の代わりに何でも謝ってしまう姉。欲しいものは先回りして、自分に譲ってくれた姉。
「あんた、座らないのかよ?」
 苛立ちながら強い口調で言うと、びくびくしながら、青年はフェンリルの斜め前の席に座った。どうやら、彼も隅のテーブルがお気に入りのようだ。
「フェンリル、さんですよね?」
「そうだけど、なにか?」
 野郎にくれてやる笑顔はないとばかりに仏頂面で答えると、青年はますます縮こまる。
「公園で、野良猫とか、野鳥とかと一緒にいたから…。」
 もそもそとサンドイッチを食べ始めた青年に、フェンリルはため息をついた。
「ちょっと知りたいことがあったから、聞いてただけだよ。」
 それからは、がつがつとフェンリルが食べる音と、青年がもそもそと咀嚼する音だけが響く。
 先に食べ終わって立ち上がりかけたフェンリルだったが、パーカーのポケットに入っていた公園で出会った少女にもらった飴の存在に気付き、ぽんとそれを青年に投げてよこす。透明な袋に包まれた桃色の飴。
「貰い物だけど、やる。蹴って悪かった。」
 癖のない艶やかな黒髪。
 ティーエ。
 フェンリルは正面きって会うことの出来ない姉を思った。

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 それは、明らかに尻尾だった。もふもふとした、狼を思わせるような尻尾。
 昔、飼っていた犬が、そんな尻尾だったと思った瞬間に、ユンファは声をかけていた。
 昼下がりの公園は、鳩が忙しなく地面をつついている。
「あんた、ちょっと。」
 そこで、彼女は自分がしていることはナンパではないのかと、ふと思い返す。いや、一応自分は女性なので逆ナンパというやつか。
 考え込んでいると、相手の方がじろりと睨んできた。長身で筋肉質。女にしては大柄で長身なユンファだが、彼に敵う気はしない。
「なんだよ?」
「いい尻尾だと思って。」
 物怖じすることなく、殺される時は何をしても殺されるのだと分かっているユンファは、素直な感想を口にした。
「うちの非常食もそんな尻尾だった。八年前に死んだけど。」
「非常食?」
「飼ってた犬の名前だよ。」
 胸を張って言うと、さすがに唖然としたのか、相手が黙り込んだのでユンファは一応説明した。非常食はその責務を全うしたのではなく、ちゃんと老衰で死んだこと。自分たち家族が非常食をとても愛していたこと。けれど、何かあった時には、その犬はやはり非常食になっていたであろうこと。
「仕方ないんだ。うちはずっと貧乏だったから。」
 潔く言うユンファに、男は「そうか。」とだけ言った。
「あんたがそんなんじゃなかったら、うちの銭湯に誘うんだけど、毛がねぇ。」
 身体的特徴をあげつらうようにとられそうなことでも、はっきりと言う彼女に男は顔をしかめた。
「銭湯なんて冗談じゃない。じろじろ見られるし。」
「だろうね。いい尻尾だから。」
「いや、そういう意味じゃなくて…。」
 獣人として見られることのデメリットを説いても理解しないことを悟ったのか、男は口を閉じた。
「あんた、名前を聞いてもいいかい?私は客商売だから、人の名前を把握しておきたくてね。このままじゃ、非常食で覚えそうだ。」
「俺は食えんぞ。…ファンクだ。あんたは?」
「ユンファだよ。いい尻尾を見せてもらった礼にそのうち、食事にでも行こう。」
 公園のベンチから立ち上がり、昼休憩から研究室に戻るユンファだが、ふと足を止めてファンクを振り返った。
「もちろん、割り勘だからね!」
 ファンクは振り返って微妙な顔をしたが、何も言わなかった。
「あの尻尾、どこかに売ってないもんかねぇ。格安で。」
 ユンファのつぶやきは、鳩の羽ばたきにかき消された。

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