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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 六月なのにその日は晴天で。
 閉め切ったカーテンの隙間から、強くなった日差しがこぼれて入ってくる。
 人を切り刻んだ後の手は赤く、血しぶきが盛大に白衣に飛んでいる。
 特になんということもないいつもの仕事だった。
 それなのに、こんなに疲弊しているのは、見えないはずの青空のせいか。
 過去が、始まった夏の広く高い青空が、モルヒネを責め苛む。
 失くしたものが、この指をすり抜けた名前もつけられなかった感情たちが、一気に蘇る。
 作業が終わったと報告をしようと携帯のフラップを開けて、モルヒネは携帯を取り落としそうになった。
 メールが届いている。
 仕事のメールではなく、色彩豊かな絵文字付きのメールが。
「サイガー……!?」
 ドクロでデコレーションされた携帯の触れた部分にこびりつく、赤褐色の液体。
「見せられない!こんな、こんな……。」
 仕事が終わったかを確認するための連絡で携帯が鳴るのすら聞こえず、モルヒネは水道に駆け寄った。蛇口を捻って、流れ出る水に手を晒す。何度も何度も擦っても、赤い染みが消えないような気がして、モルヒネはひたすらに手を擦り続けた。


 洗い過ぎて赤くなった手を摩りながら、モルヒネは夕暮れの街をとぼとぼと帰路に付く。夜にはメールの相手が来るのに、気持ちが明るくならない。それどころか、どこかに洗い流し忘れた血が残っているのではないかと、心配でならない。
「サイガーにだけは、サイガーにだけは、知られたく、ないんですよぉ。」
 ぶつぶつと取り憑かれたように呟くモルヒネは、ふと花屋の前で足を止めた。
 店仕舞いをする花屋のおばさんが、極彩色の花の入ったバケツを店の中に引き入れようとしている。その色彩に、モルヒネは目を奪われた。
「あのぉ、それ……。」
「ストレチア、買うのかい?」
 人懐っこいおばさんの笑みにモルヒネは頷いてしまう。
「ストレチアって、いうんですかぁ?」
「そうだよ。知らないのに買うのかい?」
 問われて、モルヒネはもごもごと口の中で言葉を紡ぐ。
「知ってる人に似てるんですぅ。」
「おや、それはいい人なんだろうね。ストレチアの花言葉は、寛容、気取った恋、輝かしい未来だからねぇ。」
 数本のストレチアを中心に花束を作ってくれながら、おばさんは首を傾げた。
「もう一つあったような気がするけど、まぁ、いいか。店仕舞い前だからまけとくよ。」
 勘定を払って、モルヒネはずっしりとボリュームのある花束を受け取った。
 花など買ってどうするんだろう。あの男に笑われるかもしれない。おばさんはあまりにも豪奢に花束を作ってくれた。
 家に着く直前で、見たかった顔を目にして、モルヒネは思わず走り出していた。
「サイガー!」
 駆け寄ったところで、相手が自分の手にしているものをじっと見ていることに気付いて、はっとする。
「これは……えっとぉ、サイガーに、なんとなく……。」
 似ている、とまで言えなかった。消えた語尾をサイガが拾ってくれる。
「俺にくれるの?」
 にっと明るい笑顔に、モルヒネもぱっと笑顔になる。
「はい!」
 元気良く答えて手渡した時に、サイガの手とモルヒネの手が触れた。
「モルヒネ、その手。」
 血でもついていたかと思い、青くなって手を引いたモルヒネの手を、サイガの手が追いかけて包み込む。
「赤くなってる。大丈夫?」
 心配そうなサイガの顔が豪奢な花束の向こう側に見えて、モルヒネはほっとした。
「大丈夫ですよぉ。手を洗ったら、何かの薬品にまけたみたいで。」
 適当な言い訳をすると、サイガはモルヒネの手を優しく撫でてから、微笑んでくれた。
「花、ありがとう。」
 普通に贈るにしては豪奢すぎるその花束も、サイガが持つと花に負けてはいない。
「ストレチアっていう花なんだそうです。」
 さっきの花言葉を思い出し、説明しながら、モルヒネはサイガと帰路に着いた。


 ストレチア。
 別名、極楽鳥花。
 花言葉、寛容、気取った恋、輝かしい未来、全てを手に入れる。


 僕は。
 俺は。
 あなたの全てを手に入れたい。

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 雨の日は、嫌いじゃない。

「ねぇ、サイガー出かけませんかぁ?」
 モルヒネにねだられて、サイガはコーヒーのマグカップをテーブルに置いた。昼食を終えたモルヒネは、どこかそわそわしていた。
「行きたいところでもあるの?」
「せっかくのいい天気じゃないですかぁ。サイガと歩きたかったんですけど。」
 その返事にサイガは苦笑した。
「雨の日のデートね。悪くないけど、どこに行こうか?」
「サイガーにはぁ、傘を貸してあげますよ?」
 ふふふっと笑んでモルヒネはいそいそと支度をしだす。レインコートに長靴。どこか子どものようなモルヒネの姿に、サイガは笑ってしまう。
「なんですか?」
 きょとんとした顔で聞かれて、サイガは首を振った。
「なんでもないよ、行こう。」
 笑いを止めよとするのに、止まらない。
 でも、決して嫌な笑いではなかった。体の奥底から、暖まるような笑い。
「レインコートが地味じゃない?」
 薄紫に星柄のレインコートが虹色に変わる。
「虹ですねぇ。」
「これなら、モルヒネがどこにいても見つけられる。」
「僕はサイガから離れませんから、見つける必要ないですよぉ。」
 そんなことを言いながら通りに出た。
 あてもなく歩いて行くと、見えてきたのは寂れた町外れの遊園地。
 こういうのはモルヒネが好きかもしれないと思い、サイガが声をかける。
「入ってみる?」
 モルヒネの目はもう輝いていた。
「いいんですかぁ?」
 そこまで言われると入らないわけにはいかない。
 霧のように細かい雨が傘を伝って雫となり落ちる。
 スキップして入っていったモルヒネは、ペンキの剥げかけた回転木馬や、きしみそうな観覧車、ちゃちな作りのゴーカートなどに声を上げる。
「サイガーあれも乗ってみましょうよぉ!」
 ぐいぐいと引っ張られてサイガはめいいっぱい引きずりまわされた。
 雨の寂れた遊園地は二人きり。
 狭い敷地にあるアトラクションを全て制覇して、それでもまだ足りないと動き出しそうなモルヒネの手を引っ張って、サイガは売店に入っていった。売店の従業員も奥のほうに引っ込んでいて、買ったものを食べるスペースはがらんとしている。壊れそうな椅子にモルヒネを座らせて、何か暖かいものを注文しに行こうと立ち上がるサイガに、モルヒネが手を握った。
 行かないでと無言で目が語る。
 冷たい手だった。何時間も雨にさらされたモルヒネの手。
 その指先に、サイガは音を立てて口づけた。
「すぐ戻ってくるから。こんなに冷えて。暖かいものでも、飲もう?」
「サイガー僕も行きます。」
 先程までの笑顔はどこに行ったのか、不安そうなモルヒネと手をつないだ。片手で水の垂れるレインコートのフードを外してやり、濡れた前髪をかき分けてキスを落とす。
「一緒に、行こうか。」
 曇ったモルヒネの表情が、ぱっと明るくなった。
「サイガの奢りですよぉ?」
「はいはい。奢るよ、可愛いモルヒネ。」
 つないだ手は、帰り道も離れなかった。

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 嫌な仕事だったのか、真実の表情が晴れない。
 チャイはお得意のオヤジギャグを連発することにした。
「今日の仕事を頼んだのは、お頭かしら?くっ。」
 自分で言っていて笑ってしまうが、真実はソファに足を抱えるようにして座ったまま、ぼんやりと窓の外を見ている。
「商いは飽きない、っていっても、大変だね、まこちん。」
 肩を抱こうと腕を出すと、すっと払われてしまった。
「おやぁ、真実、こんなところに、傷が。怪我したんじゃないか?俺、傷に気づいたよ。傷に、気付く。くっくくく!」
 ソファの隣りに座ると、真実は距離を空けて、端っこの方に逃げてしまう。よほど嫌なことがあったのだろう。
 座っていれば気付かない1センチの身長差。
 真実はチャイより背が高い。
「公道で行動したんだろ、疲れたよな。こうどうで、行動……。」
「チャイ。」
 ふと、オヤジギャグを遮って真実がチャイに近づいてきた。ふわりと肩に乗せられる、頭。頬に触れる柔らかな明るい茶色の髪。
「お願い、今は、黙って。」
 甘えるような口調にチャイは、真実の頬に手を添えた。
 重なる唇。
 ぱっと、弾かれたように真実が顔を赤らめて体を離す。
「ちゃ、チャイ、何を!?」
「俺を黙らせるには、これ以外方法はないよ?」
 へらへらと笑っているチャイに、真実は俯いた。
 立ち上がり、部屋を出ていこうとする真実を、チャイは抱きしめる。
「真実、俺を、黙らせたく、ないの?」
 焦らすような言葉に、真実は動かなかった。動けなかった。
「行き先は、ベッド?それとも、ソファ?」
 甘い囁きに、真実の耳がしびれる。
 抱きしめられてしまえば、身長はもう関係なかった。

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