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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 雑踏の向こうに小さな人影が見えた。
 どんなに遠くても、どんなに小さくても、見間違うことのない相手。
 それは、多分、相手も同じで。

 あの視線をこちらに向けたいと思うと同時に、逃げたいとも思った。
 逃げなければいけないとも。


「ちょっと、通してくれ。」
 サーカスで空音の演目を見にきた時に、フェンリルはティーエの姿に気付いた。幸い、ティーエは小柄なので客に巻き込まれて、こちらに気付いていない。
 空音に素晴らしかったと感想を言いたかったが、そんな状況ではなくなって、大道芸を見ている子ども達の群れに紛れ込む。黒い尖った耳の長身の猫の獣人が、ヌイグルミを操っている。
 不本意ながら、子どもの群れに混じっても、小柄なフェンリルは違和感がなかった。
「あれ?あんた……。」
 フェンリルを見た長身の猫の獣人の男の目が見開かれる。
「かくまってくれ!」
 フェンリルは小声で囁いた。
「かくまうって、こいつ、何か悪いことしたのか?」
 男の肩の犬のぬいぐるみが喋り出し、フェンリルはそいつを睨んだ。
「それを黙らせろ!」
「いきりたつなよ。子どもが怯えるだろ?」
「スパロー!」
 同じギルドのメンバーで、実践部隊で特に長身で目立っている彼を、フェンリルは知っていた。空音と同じサーカスの一員だからということもあったが、何よりもその身長が、悔しいことにフェンリルの目を引いた。
「何かから逃げてるのか?まさか、マフィアとか?」
 横からかけられた声に、フェンリルはそっちを見た。これまた長身の男が立っている。赤毛で頭にゴーグルをつけた彼のことも、フェンリルは知っていた。
「チノ……だっけ?あんたには関係ないよ。」
「困ってるんじゃないのか?」
 小首をかしげるチノの人の良さそうな顔に、フェンリルはため息をつく。
 そして、はっと顔を上げた。
「そうだ、困ってるんだ。あんたら、三回戦の説明のメール見たか?」
 問いかけられて、スパローとチノは当然と頷いた。
「手、貸してくれないか?」
 頼むのは本意ではなかった。けれど、勝てるメンバーを集めなければいけない。ギルドに勝ちをもたらさなければ、この街がどうなるか分からない。
「他のメンバーはどうなってるんだ?」
 チノに問われて、フェンリルは眉間にしわを寄せる。
「棗とフロットには声をかけようと思ってるけど、他に誰に声をかけたらいいのか……。」
 ため息をついたフェンリルに、チノが声を上げた。
「シフォンはどうかな?実践部隊で、まだチームを組んでないみたいだった。」
「シフォン?」
 甘いお菓子か柔らかな布を想像させる名前に、フェンリルはスパローを見た。
「あぁ、あの結構派手……というか、個性的な格好の。」
「シフォン、か。」
 呟いてから、はっと辺りを見回して、フェンリルはスパローとチノの顔を交互に見た。
 ティーエが近くにいるような気がする。
「詳しいことは、本部で話そう。また、後日!」
 逃げるようにその場を後にするフェンリルを、二人は黙って見送った。


 もし、神がいるなら、ティーエは魂を削るようにして自分を探さなくてもいいし、自分はティーエからにげなくてもいいはずだ。
 でも、そうではないから。
 そばにいれば、きっと歪んでしまうから。
 せめて、最愛の姉に平穏な街を。

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 六月なのにその日は晴天で。
 閉め切ったカーテンの隙間から、強くなった日差しがこぼれて入ってくる。
 人を切り刻んだ後の手は赤く、血しぶきが盛大に白衣に飛んでいる。
 特になんということもないいつもの仕事だった。
 それなのに、こんなに疲弊しているのは、見えないはずの青空のせいか。
 過去が、始まった夏の広く高い青空が、モルヒネを責め苛む。
 失くしたものが、この指をすり抜けた名前もつけられなかった感情たちが、一気に蘇る。
 作業が終わったと報告をしようと携帯のフラップを開けて、モルヒネは携帯を取り落としそうになった。
 メールが届いている。
 仕事のメールではなく、色彩豊かな絵文字付きのメールが。
「サイガー……!?」
 ドクロでデコレーションされた携帯の触れた部分にこびりつく、赤褐色の液体。
「見せられない!こんな、こんな……。」
 仕事が終わったかを確認するための連絡で携帯が鳴るのすら聞こえず、モルヒネは水道に駆け寄った。蛇口を捻って、流れ出る水に手を晒す。何度も何度も擦っても、赤い染みが消えないような気がして、モルヒネはひたすらに手を擦り続けた。


 洗い過ぎて赤くなった手を摩りながら、モルヒネは夕暮れの街をとぼとぼと帰路に付く。夜にはメールの相手が来るのに、気持ちが明るくならない。それどころか、どこかに洗い流し忘れた血が残っているのではないかと、心配でならない。
「サイガーにだけは、サイガーにだけは、知られたく、ないんですよぉ。」
 ぶつぶつと取り憑かれたように呟くモルヒネは、ふと花屋の前で足を止めた。
 店仕舞いをする花屋のおばさんが、極彩色の花の入ったバケツを店の中に引き入れようとしている。その色彩に、モルヒネは目を奪われた。
「あのぉ、それ……。」
「ストレチア、買うのかい?」
 人懐っこいおばさんの笑みにモルヒネは頷いてしまう。
「ストレチアって、いうんですかぁ?」
「そうだよ。知らないのに買うのかい?」
 問われて、モルヒネはもごもごと口の中で言葉を紡ぐ。
「知ってる人に似てるんですぅ。」
「おや、それはいい人なんだろうね。ストレチアの花言葉は、寛容、気取った恋、輝かしい未来だからねぇ。」
 数本のストレチアを中心に花束を作ってくれながら、おばさんは首を傾げた。
「もう一つあったような気がするけど、まぁ、いいか。店仕舞い前だからまけとくよ。」
 勘定を払って、モルヒネはずっしりとボリュームのある花束を受け取った。
 花など買ってどうするんだろう。あの男に笑われるかもしれない。おばさんはあまりにも豪奢に花束を作ってくれた。
 家に着く直前で、見たかった顔を目にして、モルヒネは思わず走り出していた。
「サイガー!」
 駆け寄ったところで、相手が自分の手にしているものをじっと見ていることに気付いて、はっとする。
「これは……えっとぉ、サイガーに、なんとなく……。」
 似ている、とまで言えなかった。消えた語尾をサイガが拾ってくれる。
「俺にくれるの?」
 にっと明るい笑顔に、モルヒネもぱっと笑顔になる。
「はい!」
 元気良く答えて手渡した時に、サイガの手とモルヒネの手が触れた。
「モルヒネ、その手。」
 血でもついていたかと思い、青くなって手を引いたモルヒネの手を、サイガの手が追いかけて包み込む。
「赤くなってる。大丈夫?」
 心配そうなサイガの顔が豪奢な花束の向こう側に見えて、モルヒネはほっとした。
「大丈夫ですよぉ。手を洗ったら、何かの薬品にまけたみたいで。」
 適当な言い訳をすると、サイガはモルヒネの手を優しく撫でてから、微笑んでくれた。
「花、ありがとう。」
 普通に贈るにしては豪奢すぎるその花束も、サイガが持つと花に負けてはいない。
「ストレチアっていう花なんだそうです。」
 さっきの花言葉を思い出し、説明しながら、モルヒネはサイガと帰路に着いた。


 ストレチア。
 別名、極楽鳥花。
 花言葉、寛容、気取った恋、輝かしい未来、全てを手に入れる。


 僕は。
 俺は。
 あなたの全てを手に入れたい。

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 ない左足が、痛んだ気がした。

 毎年の検診で、ヴィネリアが声をかけられるのは、いつものことだったが、今年は声をかけた相手が違った。
 幼少期に失った足は、義足にしても成長とともにそれを調整していかなければいけない。多少ならばそのままで調整できるが、成長が著しい時には全て作りかえることもある。
「今年から、君の主治医になった、アルさんだよぉ。幻視痛がぁあるでしょぉ?そういうのもぉ、ちゃんと報告しないと駄目だよぉ。」
 極彩色の髪色、ひし形に空いた制服の胸から見える胸の谷間とブラジャーのレース、青か緑か分からない目の色、甘えたような鼻にかかった間延びする声。
 とにかく、その女は変だった。
「痛みが出たらぁ、すぐにアルさんにお電話だよぉ。」
 渡された名刺には虹色のグラデーションでアルフォンソとやたら可愛い活字で書いてある。その下に、丸っこい字で電話番号が書いてあった。
「分かりました。」
 色々言っても無駄な時間をとるだけだと、従うふりをするヴィネリアに、アルフォンソはにっこりと笑いかける。
「分かったのぉ。いいお返事だねぇ。」
 ぐりぐりと頭を撫でられて、ヴィネリアは歪みそうになる表情をなんとか平静に保つ。
 そこそこ長身のアルフォンソはヴィネリアより少しだけ背が低い。
「撫でないで下さい。」
 すっと手を払いのけても、アルフォンソは嫌な顔をしなかった。それどころか、人懐っこく寄ってくる。
「だってぇ、君は19歳。アルさんは29歳。それにぃ、アルさんはお医者さんだからぁ、ちょっとは甘えても、いいんだよぉ?」
 甘える。
 その言葉に嫌悪感を抱くヴィネリア。
「失礼します。」
 そっけなく診察室を出て行こうとしたヴィネリアに、アルフォンソは小首を傾げた。
「失礼なんかじゃ、なかったよぉ?アルさん、ヴィネリアくんに会えて嬉しかったけどぉ。」
 真っすぐすぎる言葉に、ヴィネリアは返事すらせず、歩き出した。


「あ!ヴィネリアくんだ。何食べてるのぉ?アルさんも食べたぁい。一口ちょうだいね。」
 食堂で会った瞬間に、駆け寄ってきたアルフォンソに、食べていたペペロンチーノの皿にフォークを突っ込まれて、ヴィネリアは唖然とした。仲のいい相手でも食べ物のやり取りをするのはためらわれるのに、今日初めて会った相手の食べかけのペペロンチーノにいきなりフォークを突っ込んでくるなど。
「やめて下さい、汚らしい!」
 思わず本音が出てしまったが、そんなこと全く気にせずに、アルフォンソはすでに口に運んでいた。
「おいしーい!これ、ルーカくんが作ったのだねぇ。ルーカくんのはぁ、パスタの茹で加減とぉ塩加減が他の人とぉ違うんだよねぇ。おいしーい!」
 歓声を上げて、止める間もなく二口三口と口に運ぶアルフォンソ。ヴィネリアが唖然としている間に、皿いっぱいのペペロンチーノは半分以下に減っていた。
「止めて、下さい……。」
 もう疲労感しか覚えなくなって頭を抱えるヴィネリアに、アルフォンソははたと気付いてフォークを止めた。
「ごめんねぇ、アルさん、食べすぎちゃったぁ。すぐに作ってもらうからぁ。」
 言いながら、ぱたぱたと調理場の方に向かうアルフォンソ。
「ルーカくん、ペペロンチーノお代りと、カルボナーラ大盛りでぇ!」
「また大盛りかよ!今日はこぼすんじゃねーぞ!」
 プラチナブロンドの長身の青年、ルーカに言われてアルフォンソは、へへっと笑う。
 ぱたぱたと戻ってきたアルフォンソだが、ヴィネリアがもう食べようとしないのに首を傾げる。
「もう食べないのぉ?」
 他人に食べられた料理など口をつけたくないと正直に言うのも癪だったので、ヴィネリアは無言で皿をアルフォンソの前に突き出した。アルフォンソの顔がぱぁっと明るくなる。
「くれるの?食べていいのぉ?ありがとぉ!ヴィネリアくん、大好きぃ!」
 座った状態で横から抱きしめられて、生の胸に顔を埋める形になってヴィネリアは慌てる。
「だ、大好き!?」
「うん!アルさん、ルーカくんのパスタ、大好きなのぉ。パスタくれるヴィネリアくんも、だぁいすき!」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ヴィネリアは必死になって抵抗した。
「き、気軽に、抱きつかないでもらえますか?」
「駄目なのかなぁ?」
 きょとんとしているアルフォンソは、変だが明らかに美女で。
 ヴィネリアは今後の治療のことを考えて頭を抱えた。

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「つまり、ユンファちゃんは何もしなくていいんだよ。」
 黒狸の言葉に、ユンファは「ふぅん。」と口元に手をやる。
 説明は簡単だった。
 黒狸とユンファの星を取り替えること。そして、ユンファはそれを守っているだけでいいということ。
 元々戦いに特化していないユンファにとって、それは願ってもない申し出だったし、何よりも、何もしなくてもいいというのが気に入った。
 ただ、問題は一つ。
「守りきったら、いくら払うんだい?」
 星を持っている以上、他人のものとはいえ、被害がユンファに来ることもあるわけで。
 その件に関しても、黒狸は十分な額を提示した。

 そういうわけで、ユンファは基本的にゲームが始まっても、紅龍会の研究室に行くか、銭湯で働くかという、いつも通りの生活を続けていた。銭湯に誰かきたら、「公共物を壊してもいいのかい?」という脅し文句で追い返せばいいだけのこと。
「それにしても、深夜営業ができなくなるってのは、困りものだねぇ。ボスは星を手に入れた奴にはボーナスを出すって言ってるけど。」
 小耳に挟んだリスを捕えるゲームのことだが、どうすればいいのかユンファ
にはよく分からない。リスなど食べたことも飼ったこともなかったから。
 それでも、星が手に入れたくて、ユンファは必死に考えた。

 その結果。

 深夜二時の森の中で、籠とひもの付いた棒という非常に原始的な罠をはり、茂みに巨大な身を隠すユンファの姿があった。身を縮めて体操座りをしているユンファは欠伸を噛み殺しながらリスを待つ。
 その餌は。

 五百円玉。

 ユンファの銭湯は三百円で一回入浴できる。それを考えれば破格の値段だが、彼女はリスが金に興味がないなどさらさら思っていない。
 ひたすら待つこと一時間。
 足がしびれて眠くなってきた頃に、何かが走ってきた。
 ユンファはすかさずひもを引く。
 棒が倒れ、かぶさる籠。

 五百円玉を握りしめた、キリシュの手の上に。

「あんた!何邪魔してるんだよ!」
「うわぁ!?姐さん!?」
 そして、蹴られるキリシュであった。

 後日。
「ごめん、ユンファちゃん。ユンファちゃんの星、取られちゃったんだよね。」
 黒狸が報告に来る。
「そんなんだと思ってたよ。料金二割増しね。」
 ユンファは平静に答えた。

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「あんた!そこのあんた!」
 呼ばれて錦は足を止めた。
「あんたじゃないよ。錦だよ。」
 呟く言葉は酷くけだるい。それもそのはず、彼女は今さっき戦闘を終えて、獣化から元に戻ったばかりで、激しい疲労感に見舞われていたのだ。しかも、獣化したので服は脱げ、素っ裸で血まみれという。
「何をされたんだい?ここいらの連中は女と見ると、酷いことしやがるから。」
 舌打ちしながら紺色のジャケットを脱ごうとしたユンファに、錦は緩々と手を振った。
「いらねェよ。これ、ほとんど、返り血だし。」
「だったら、何もされてないんだね?」
 ジャケットが血で汚れるのも構わず、ユンファは錦をそれで包み、小柄な体を軽々と肩に抱える。
「ちょっと!何しやがるんだよ!?」
 驚きつつも、錦はすぐにぐったりと力を抜いた。抵抗できるほどの体力が残っていない。
 いつもはそんなことはないのだが、幼い日から酷使され続けた体は、そろそろガタがきているのかもしれない。
「いいから、おいで!」
 連れてこられたのは、異邦人街の銭湯だった。
「本当はね、刺青入ってる奴は駄目なんだけど、準備中だし、特別だからね!」
 言い聞かせながら、ユンファはハイソックスを脱いでホットパンツとシャツだけになり、袖まくりをして錦を風呂の安っぽいプラスチックの椅子に座らせる。
 勢いよくお湯をかけられて、錦は悲鳴を上げた。
「あっちィ!!!!!あつッ!あつッ!」
「銭湯ってのは熱いもんなんだよ!」
 少しも手加減せず、ユンファはお湯をぶっかけていく。
「しみるよォ!しみるってば!」
 擦り傷程度しか負っていない彼女でも、熱湯は非常にしみるようだった。
「あんた、きったないねぇ。いつもちゃんと洗ってるのかい?」
 錦の言葉を無視して、石鹸を泡立てるユンファ。湯タオルでごっしごっしと力いっぱいこすられて、錦はもう涙目になっている。
「いてェってば!いてェんだよ!やめろよ!」
「垢がぼろぼろ出てくるじゃないか。全く、いつも、どうやって洗ってるんだか。」
 ざーっと刺青の入った背中を流して、髪を洗おうとしてユンファの手が一瞬止まった。濡れた黒髪から覗くはずの左耳が欠損している。
 けれど、錦から言い出さない限りそれに触れる気はなく、ユンファはそのまま作業を続けた。ごしごしと現れる頭。
「シャンプーの泡が立たないじゃないか。こりゃ二度洗いだね。」
 一度では洗い落しきれなかった汚れを二度目ですっきりと落とし、ユンファは垢剥けて真っ赤になっている錦を熱い湯船に突っ込んだ。
「あっちィよ!ちょっと、お前!」
「お前じゃなくて、ユンファ。私はユンファ。あんたは錦なんだろう?」
 ものすごい目で睨まれても怯まないユンファに、拍子抜けしたように錦は目を丸くした。そして、笑いだす。
「ユンファ、か。お前、本当に物好きだねェ。」
 笑う錦に、ユンファもにっこりとする。
「元気、出ただろ?体が温まると、元気になるものさ。」
 そういえば先ほどまでの倦怠感が薄れていることに気付いて錦は、額に手をやった。
 まだ大丈夫かもしれない。そんなことを考え始めた自分に、錦は驚いていた。
 風呂から上がった錦に、ユンファがコーヒー牛乳を差し出す。それから、まだ使っていない風情の下着とシャツとホットパンツをそっと置いた。
「私のだからでかいだろうけど、裸で帰られちゃ困るんでね。」
「お前みたいな物好きに会ったのは、久しぶりだよ。」
 苦笑しながらぶかぶかのそれを身につける錦は、下着だけがサイズがぴったりなことに気付いた。恐らく、錦が湯船に浸かっている間にユンファが買ってきたのだろう。
「別に感謝されたくてやったわけじゃないからね。またここに来て、今度はちゃんと金を払って風呂に入ること。じゃないと、あんた、汚いよ、ホント。」
 汚いと言われて錦は小首を傾げた。無頓着な錦は清潔というものをそれほど真剣に考えていない。
「金は、払いにくるさ。」
「風呂にも入るんだ。」
「いいのかい、刺青?」
 言い返す錦に、ユンファはにっと笑った。
「準備中に来な。」
 そこまで言われては仕方なく、錦はコーヒー牛乳を飲みほした。

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