エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。
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弟が家を出たのは15歳の時だった。
天李(ティエンリー)こと、ティーエにとって、弟の天狼(ティエンラン)ことフェンリルは、生まれた時から片時も離れたことのない半身のような存在だった。13歳まで部屋も同じで、二段ベッドの上にティーエ、下にフェンリルが眠っていた。北の国の神話から、天狼をフェンリルと呼び始めたのもティーエだった。
義務教育を終えて、大学に進むかと問われて、ティーエは医者になりたかったので当然、是と答えた。フェンリルは、否と答えた。
フェンリルは独立して一人で働き、暮らしたいと言い出したのだ。
父は貿易関係の仕事で、母は教師。ごく普通の中流家庭に生まれた双子の姉弟。ティーエは当然、フェンリルが大学に行くのだと信じていたし、両親もそうだった。しかし、両親とよく話しあった結果として、フェンリルは一人で家を出てしまった。
部屋が別々になった13歳の時から、なんとなく、フェンリルが変わったことにはティーエも気づいていた。学校をサボったり、授業中に抜け出したり、時に悪い連中と付き合ったり。そのたびにティーエはフェンリルを学校に戻そうと必死に追いかけた。
卒業の頃にはフェンリルが落ち着いていたので、すっかり安心していたのだが、まさか家を出てしまうなんて思いもしなかった。
ティーエは半身を失って、一人になった。
それでも、小さな体でティーエは医学部に進み、実地研修にまでこぎつけた。
できるだけフェンリルのことはそっとしておいてあげようと思っていた。彼は彼なりに幸せに暮らしているだろうと。
そんな時だったのだ。
あのゲームの始まりの噂。
軍とギルドとマフィアが動き出すという噂が街中に流れ、人々が慌ただしく動き出した中央街で、ティーエは呆然と立ち尽くす。
皮肉屋で、最終的には毒舌しか吐かなくなった弟。
「絶対、マフィア……。」
病院の休憩室でパンを片手にぽつりと呟いた言葉に、同じ学生がきょとんと目を丸くする。
「マフィアがどうか、したのか?」
「フェンリルは絶対マフィアにいます!あの子、性格が悪いから!」
その学生と両親が止めるのも聞かず、その日、ティーエは休学届けを出した。
異邦人街に入り込んだ瞬間、聞こえた銃声に、足が止まるよりも先にティーエは駆け出していた。弟が撃たれたかもしれない。
もしも、フェンリルだったら絶対に助けないといけない。
悪ぶっていても、本当は優しいいい子なのだから。
そういう姉の勝手な思い込みが嫌で弟が家を出たなど、彼女は知るはずもない。
「大丈夫ですか、フェンリル!お姉ちゃんが絶対に助けてあげますから!」
駆け寄ってまず覗き込んだ傷口は、見事な銃創だったが、ティーエは太ももに打ち込まれた弾を不可視の手で軽く取り除き、傷口に指を突っ込んで直接圧迫法で止血した。
そして、顔を見る。
「……誰、ですか?」
「いや、あんたこそ、誰?」
撃たれたにしては拍子抜けするほど普通の声で対応するその優男は、ヘイリーと名乗った。
「医大生なんだ。それで、的確な処置ができたんだね。」
騙した女に撃たれたという間抜けなマフィアは、ティーエがフェンリルのことを聞くのに、「いいこいいこ」とばかりに頭を撫でてきた。
「フェンリルは意地悪で性格が悪いから、絶対にマフィアなんです。」
「うんうん、そうだね。ところで、病院がなくて、俺みたいに撃たれたら困っちゃう人がここにはたくさんいるんだけど、助けてくれない?」
ヘイリーの目を見ていると否と言えず、ティーエは黙り込んでしまう。決して彼が好きなわけではない。恋心など、鈍いティーエは誰に対しても抱いたことはなかった。
ただ、困っている、助けてと言われると、断れないのだ。
その後、色んな怪我人が訪れるようになって、ティーエはいつの間にか診療所を一つ任されるようになってしまった。
141センチの小さな無免許医の弟探しは、前途多難である。
天李(ティエンリー)こと、ティーエにとって、弟の天狼(ティエンラン)ことフェンリルは、生まれた時から片時も離れたことのない半身のような存在だった。13歳まで部屋も同じで、二段ベッドの上にティーエ、下にフェンリルが眠っていた。北の国の神話から、天狼をフェンリルと呼び始めたのもティーエだった。
義務教育を終えて、大学に進むかと問われて、ティーエは医者になりたかったので当然、是と答えた。フェンリルは、否と答えた。
フェンリルは独立して一人で働き、暮らしたいと言い出したのだ。
父は貿易関係の仕事で、母は教師。ごく普通の中流家庭に生まれた双子の姉弟。ティーエは当然、フェンリルが大学に行くのだと信じていたし、両親もそうだった。しかし、両親とよく話しあった結果として、フェンリルは一人で家を出てしまった。
部屋が別々になった13歳の時から、なんとなく、フェンリルが変わったことにはティーエも気づいていた。学校をサボったり、授業中に抜け出したり、時に悪い連中と付き合ったり。そのたびにティーエはフェンリルを学校に戻そうと必死に追いかけた。
卒業の頃にはフェンリルが落ち着いていたので、すっかり安心していたのだが、まさか家を出てしまうなんて思いもしなかった。
ティーエは半身を失って、一人になった。
それでも、小さな体でティーエは医学部に進み、実地研修にまでこぎつけた。
できるだけフェンリルのことはそっとしておいてあげようと思っていた。彼は彼なりに幸せに暮らしているだろうと。
そんな時だったのだ。
あのゲームの始まりの噂。
軍とギルドとマフィアが動き出すという噂が街中に流れ、人々が慌ただしく動き出した中央街で、ティーエは呆然と立ち尽くす。
皮肉屋で、最終的には毒舌しか吐かなくなった弟。
「絶対、マフィア……。」
病院の休憩室でパンを片手にぽつりと呟いた言葉に、同じ学生がきょとんと目を丸くする。
「マフィアがどうか、したのか?」
「フェンリルは絶対マフィアにいます!あの子、性格が悪いから!」
その学生と両親が止めるのも聞かず、その日、ティーエは休学届けを出した。
異邦人街に入り込んだ瞬間、聞こえた銃声に、足が止まるよりも先にティーエは駆け出していた。弟が撃たれたかもしれない。
もしも、フェンリルだったら絶対に助けないといけない。
悪ぶっていても、本当は優しいいい子なのだから。
そういう姉の勝手な思い込みが嫌で弟が家を出たなど、彼女は知るはずもない。
「大丈夫ですか、フェンリル!お姉ちゃんが絶対に助けてあげますから!」
駆け寄ってまず覗き込んだ傷口は、見事な銃創だったが、ティーエは太ももに打ち込まれた弾を不可視の手で軽く取り除き、傷口に指を突っ込んで直接圧迫法で止血した。
そして、顔を見る。
「……誰、ですか?」
「いや、あんたこそ、誰?」
撃たれたにしては拍子抜けするほど普通の声で対応するその優男は、ヘイリーと名乗った。
「医大生なんだ。それで、的確な処置ができたんだね。」
騙した女に撃たれたという間抜けなマフィアは、ティーエがフェンリルのことを聞くのに、「いいこいいこ」とばかりに頭を撫でてきた。
「フェンリルは意地悪で性格が悪いから、絶対にマフィアなんです。」
「うんうん、そうだね。ところで、病院がなくて、俺みたいに撃たれたら困っちゃう人がここにはたくさんいるんだけど、助けてくれない?」
ヘイリーの目を見ていると否と言えず、ティーエは黙り込んでしまう。決して彼が好きなわけではない。恋心など、鈍いティーエは誰に対しても抱いたことはなかった。
ただ、困っている、助けてと言われると、断れないのだ。
その後、色んな怪我人が訪れるようになって、ティーエはいつの間にか診療所を一つ任されるようになってしまった。
141センチの小さな無免許医の弟探しは、前途多難である。
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