忍者ブログ
エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
染井六郎
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R
[19] [18] [17] [16] [14] [13] [12] [11] [10] [9] [8
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 それは、明らかに尻尾だった。もふもふとした、狼を思わせるような尻尾。
 昔、飼っていた犬が、そんな尻尾だったと思った瞬間に、ユンファは声をかけていた。
 昼下がりの公園は、鳩が忙しなく地面をつついている。
「あんた、ちょっと。」
 そこで、彼女は自分がしていることはナンパではないのかと、ふと思い返す。いや、一応自分は女性なので逆ナンパというやつか。
 考え込んでいると、相手の方がじろりと睨んできた。長身で筋肉質。女にしては大柄で長身なユンファだが、彼に敵う気はしない。
「なんだよ?」
「いい尻尾だと思って。」
 物怖じすることなく、殺される時は何をしても殺されるのだと分かっているユンファは、素直な感想を口にした。
「うちの非常食もそんな尻尾だった。八年前に死んだけど。」
「非常食?」
「飼ってた犬の名前だよ。」
 胸を張って言うと、さすがに唖然としたのか、相手が黙り込んだのでユンファは一応説明した。非常食はその責務を全うしたのではなく、ちゃんと老衰で死んだこと。自分たち家族が非常食をとても愛していたこと。けれど、何かあった時には、その犬はやはり非常食になっていたであろうこと。
「仕方ないんだ。うちはずっと貧乏だったから。」
 潔く言うユンファに、男は「そうか。」とだけ言った。
「あんたがそんなんじゃなかったら、うちの銭湯に誘うんだけど、毛がねぇ。」
 身体的特徴をあげつらうようにとられそうなことでも、はっきりと言う彼女に男は顔をしかめた。
「銭湯なんて冗談じゃない。じろじろ見られるし。」
「だろうね。いい尻尾だから。」
「いや、そういう意味じゃなくて…。」
 獣人として見られることのデメリットを説いても理解しないことを悟ったのか、男は口を閉じた。
「あんた、名前を聞いてもいいかい?私は客商売だから、人の名前を把握しておきたくてね。このままじゃ、非常食で覚えそうだ。」
「俺は食えんぞ。…ファンクだ。あんたは?」
「ユンファだよ。いい尻尾を見せてもらった礼にそのうち、食事にでも行こう。」
 公園のベンチから立ち上がり、昼休憩から研究室に戻るユンファだが、ふと足を止めてファンクを振り返った。
「もちろん、割り勘だからね!」
 ファンクは振り返って微妙な顔をしたが、何も言わなかった。
「あの尻尾、どこかに売ってないもんかねぇ。格安で。」
 ユンファのつぶやきは、鳩の羽ばたきにかき消された。

拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Copyright (C) 2009 Silence or Noisy, All right Resieved.
*Powered by ニンジャブログ *Designed by 小雷飛
忍者ブログ / [PR]