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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 大きなボストンバッグを一つ持って、少女とも言うべきまだ若い十代の女性が呆然とベンチに座っているのを見かけて、ルリエナは思わず声をかけてしまった。彼女のお腹が激しく鳴いているのを見かねたのだ。
「ねぇ、君、大丈夫?お腹が空いてるんじゃない?」
「あ、私……。」
 ぼんやりとしていた水浅葱色の目が焦点を結び、ルリエナを見る。緩衝地帯の病院が多くある地域には、療養のためか公園も多かった。近くのホットドッグの露店で二つ買い、ルリエナは彼女の隣りに座りながら一つを手渡す。彼女は端っこをかじってから、はっとしてお礼を言った。
「ありがとう、ございます。すみません、見ず知らずの方に。」
「いえいえ。お腹が空いてると、悲しいことしか考えないから。」
 そのまま自殺でもしてしまいそうな少女に、ルリエナは笑いかけて、それからホットドッグを頬張った。マスタードとケチャップが口の端につく。それを指先で拭って、舌先で舐めると、少女も必死にホットドッグにかぶりついていた。

「私、追い出されてしまったんです。」
 食べ終わった少女の話に、ルリエナは耳を傾ける。少女はフェリクと名乗った。
「生理食塩水を抗生物質と間違えたり、採血の患者さんを入院病棟に案内してしまったり……。」
 ぱっちりとした大きな目から、涙が零れそうになる。
「看護士に、なりたかったんです。」
 しかしながら、間違いばかり起こしてしまう彼女は、生命を扱う場所では危険としか言い様がなかった。住み込みの看護学校の宿舎から追い出されたというフェリク。
「どこにも、行く所がなくて。」
 ほろりと、零れそうな大粒の涙が、ルリエナの恐怖を誘った。
 コップ一杯の水くらいなら見てもウロコが出ないルリエナだが、なぜか涙は別だった。フェリクが泣き出せば、自分は醜い半魚人になってしまう。
「良かったら、うちの診療所に来ない?僕は夜はどこかに出かけてるから、仮眠室を使ったらいいよ。」
 申し出るのには、かなり勇気が必要だった。年は自分の娘くらいとはいえ、女性を自分の診療所に住ませるのだ。一緒に住んでいれば、ウロコを見られるリスクも高くなる。
「いいん、ですか?でも、でも……ベッドは、ルリエナさんが使って下さい。申し訳ないです!」
 頭を下げるフェリクに、ルリエナは両手を掲げた。
「僕は、あそこで眠れないんだ。夜は、特にね。」
 万年不眠症のルリエナが、研究所を思い出させる診療所の中で眠れるはずがない。
「泣かないで。」
 ふわりと微笑むと、フェリクも安心したように微笑んだ。
「よろしく、お願いします!」
 一礼した瞬間、勢い余って前にずっこけた彼女を、ルリエナは地面すれすれで受け止めた。

 頼むから、僕に水をぶっかけたり、しないでね。

 願うのは、それだけ。

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