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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 殴り合う音に、ルリエナは道を変えようかと本気で思った。怪我人がいるのならば助けるのが医者として当然のことだろうが、しかしながら、荒事は得意ではない。そもそも、自分は研究医で、最近実地に入ったばかりである。年の割に役に立つとも思えなかった。
 それでも近付いて行こうと思ったのは、白い髪を乱して戦っている青年の後方で、一人の少年が鉄パイプを振り上げたからだった。駆け寄り、ルリエナは少年の手から鉄パイプをもぎ取る。少年がルリエナを睨みつけ、ぎょっとした顔をした。長身のルリエナはひょろりとしているが、威圧感がある。
「喧嘩でこんなの使ったら、病院行きじゃすまないでしょう!」
 説教する口調でルリエナは力の限り鉄パイプの両端を握った。太い鉄パイプがぐにゃりと曲がる。
「な、なんだ、このおっさん!?」
「一人に複数で喧嘩なんて、駄目だよ。」
 諭す口調よりもパイプ曲げに説得力があったようで、少年たちはばらばらと逃げていく。残ったのは、口元に血をにじませた白い髪の青年一人だった。
「くそっ!あいつら、食い逃げしやがって!」
 集団で気を逸らして食い逃げをしたという少年たちを逃した青年は、非常に悔しそうだった。
 よろよろと歩いて行こうとする青年の肩に、ルリエナがそっと手を置くと、激しく振り払われる。
「触るなよ、おっさん!」
 手負いの獣のような姿に、怒りよりも憐れみが優った。ルリエナは膝を曲げ、青年と視線を合わせる。
「怪我の治療をさせてくれないかな?」
「こんなの、舐めたら治る。」
「足も腹も、全部舐めるの?」
 真剣なルリエナの言葉に、青年は毒気を抜かれたようだった。
「いいよ、ありがと。」
 弱々しく微笑む青年に、ルリエナは食い下がった。
「僕の診療所、すぐそこだから。お願い。このまま君を行かせたら、僕は後悔して何日も眠れなくなる。」
 元々眠りの浅い性質のルリエナ。心配事があるとすぐに眠れなくなる。それを切々と訴えかけると、青年は警戒しながら仕方なさそうについてきた。
「僕はルリエナ。変な、名前だけど。」
「俺はネフリータ。ネッフィーでいいよ。」
「じゃあ、ネッフィー。こっちに。」
 連れてきた診療所は、明るく清潔な場所だったので、ネッフィーは少し安心したようだ。
「傷を診よう。ズボンをまくりあげて?」
 素直にズボンをネッフィーがまくりあげると、痛々しい痣ができている。ルリエナはそれに湿布を貼った。
「唇の傷も消毒しようね。」
 てきぱきと治療は進む。
 しかし、シャツを脱ぐところで、ネッフィーは思い切り抵抗した。
「大丈夫だから!俺は脱がない!脱がないから!」
「傷を診るだけだよ?痛いことは絶対にしないから。」
 ちょっと強引かと思ったが、診察台に押し付けてシャツを脱がせようとした瞬間、ネッフィーの口から悲鳴が漏れる。
「いやだ!いやだあ!」
 火が付いたように暴れだしたネッフィーを、ルリエナは反射的に抱きしめていた。肩に噛み付かれ、脇腹を殴られ、足を蹴られるが、ルリエナは気にしない。
「ごめん。大丈夫。大丈夫だから。何もしない。何もしないよ。」
 色を抜いているのであろう、ばさばさとした髪を撫で続けること約5分、ようやく落ち着いたネッフィーにルリエナは湿布を多めに渡した。
「これ、自分で貼れるところに貼って。ごめんね、君……。」
 抱きしめた時にネッフィーの性別に気付いたルリエナはそれ以上言及せずに、ネッフィーを送り出す。
「ごめんな、おっさん。」
 しゅんとしたネッフィーの髪を、ルリエナはもう一度撫でた。
「僕にも絶対にされたら嫌なことがある。僕が悪かった。」
 ネッフィーが噛んだルリエナの肩には、血が滲んでいる。それが薄青いシャツに広がっていた。

 人魚ということで、人体実験をされた歳月。
 ただ老化が遅いくらいしか違いはないのに、血肉を採取され、時に、食われた。
 死んだ方がましだと思っていたあの頃。

「大丈夫。」
 今、穏やかでいられるのは、全てを過ぎたと思えるからだろうか。
 それとも諦めたからだろうか。
 ルリエナはもう一度、ネッフィーに微笑みかけた。

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