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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 思えば、その日は最悪の日だった。
 キリシュにとって、思い出したくもない日に、彼はルリエナと出会った。
 雨が降っていた。
 雨の中、えぐられそうになった右目から血を流し、満身創痍で逃げ延びてきたキリシュを、ルリエナはおっかなびっくり覗き込んでいた。眠れないままに夜の街をさまよっていた時に、突然の通り雨。ふられたルリエナは、薄青緑の透けるウロコに包まれた、人魚の姿になっていた。男なので、もちろん、足は二本であるが。
 必死に襟を立てて顔を隠しながら、植え込みの中に隠れようとした時に、水たまりの中に倒れ込んでいるキリシュを見つけたのだ。
 最初は逃げようと思った。
 こんな醜い姿を見られるくらいなら、死んだ方がましだった。
 けれど、キリシュが呻き、腕をこちらに伸ばしてきた時、見捨てられないと思った。
 担ぎ上げて、夜の闇がどうか自分の異形を隠してくれるように祈りながら診療所まで走った距離は、永遠にも思えた。診療所について、ルリエナは水使いの能力でキリシュの傷口を洗い、止血を施す。それから血を流している目を診たが、研究医生活が長く、実地経験の浅いルリエナには、止血する以外に処置のしようがなかった。
「すまない。でも、死なないで。死なないで。」
 さまようように助けを求める手を強く握る。点滴のひと雫ひと雫が落ちるのが、ひどくもどかしかった。
「もう少し、僕に知識と経験があれば。ごめんね。ごめん。」
 もうウロコが出ているので構わないとばかりに、ルリエナは青い目から涙を零した。涙は厳禁。すぐに本性が出てしまうから。

 翌朝は晴天だった。
 すっきりと目覚めた彼は、ルリエナに言った。
「腹が、減った。」
 キリシェは、ルリエナの本性を見ていなかった。というか、覚えていなかった。安堵で座り込みそうになりながら、ルリエナは謝る。
「ごめん、君の右目、多分、視力は戻らないと思う。僕に知識と経験があれば助けられたのに。」
「いや、あんたは充分、助けてくれたよ。」
 どこか達観した暗い目のキリシュにルリエナは過去の自分を重ねた。
 研究所からお払い箱にされて、どこにも行き場がなくて、途方にくれたあの日。
「朝ごはん、何か買ってくる。何がいい?」
「食えるもの。」
 キリシュの答えはそっけないまでに簡潔だった。

 ルリエナが部屋を出たら、彼は泣くのだろうか。
 声を殺して、泣くのだろうか。

 振り返らずに、ルリエナは部屋を出た。

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