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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 夜来の雨が通りを濡らしていた。

 明け方近く、そろそろ銭湯を一度閉めて掃除する時間かと外に出たユンファは、軍服姿の男が雨に濡れているのに気付いて、身を硬くする。普段は平穏に銭湯を営んでいるが、ユンファもマフィアの一員。因縁をつけられれば、軍人は敵になりかねない。
 しかし、その男はユンファなど気にしたそぶりはなく、雨の中突っ立っている。よく見ると、その手と脇腹が赤黒く汚れていた。
 考えるより先に体が動く。
 出血と体温低下で動けないであろう男を、引っ張って男湯の方に連れて行く。
「君は、何を…?」
「怪我、してるんだろう。そんなところで倒れられたら、商売の邪魔になる。それに、その手…そのまま帰れるのかい?」
 悪人を追って異邦人街に入り込んできたのであろうその男は、ためらっているようだったが、ユンファがごついブーツを脱がせようと膝を付くのに、「自分でできる。」と仕方なさそうに中に入った。ユンファは濡れたずっしりと重い上着と、血がにじんだシャツを、てきぱきと脱がして行く。ユンファの手がズボンのベルトにかかりそうになった時、男は慌てた様子で彼女の手を払った。
「じ、自分でする!」
「そうかい。じゃあ、シャワーで傷口を洗って、手も洗っときな。銃器はロッカーに入れて。」
 マフィアも利用する銭湯なので、銃器がいれられる大きな厳重なロッカーも置いてある。足早に母屋の方に走ったユンファは、眠たげに起きてきた父親と鉢合わせた。
 ユンファと父は似ていない。父は小柄で白い肌に黒髪黒い目だ。それもそのはず、ユンファは銭湯に忘れられるように捨てられていた捨て子なのだ。赤ん坊だった彼女を、子どものなかった両親は養子にしてくれた。だからこそ、この銭湯を守りたいと、ユンファは思っていた。
「親父、最後の客が来てるから、掃除はその後で呼ぶよ。」
 言って、ユンファは自分の部屋に飛び込み、無精に畳んでもいない洗濯物から長袖シャツとズボンを適当に取る。大柄で骨太な彼女は普段から男物を着ていた。ショートパンツが主流だが、ロングがあったので、ほっとしてそれを引っ張る。
 走って戻った時には男はシャワーを浴び終えて、腰にタオルを巻いていた。
「き、君は女性じゃないのか!?」
「裸なんて見慣れてるよ。10歳になる前から番台に座ってるんだ。ほら、これ、着て。下着は自販機で売ってる。」
 言いながら、ユンファは男の脇腹をまじまじと見る。よく引き締まった贅肉のついていないの脇腹は、弾がかすっただけのようで、もう血も止まっていた。
「これは?」
「買い取ってもらうよ。私のお古だけど。」
 シャツとズボンを受け取って、男は驚いて目を丸くする。
「き、君の?」
「そうだよ?着れるならいいじゃないか。あ、私はユンファ。感謝してくれるなら、今後、贔屓にしておくれ。」
 ユンファの笑顔に、男は戸惑うように答えた。
「私は…俺は、ヘイドだ。ありがとう。」
「うん、礼は代金でいいよ。」
 その服は中古だからと、計算し始めるユンファに、ヘイドは完全に飲まれていた。

 人を殺した。
 悪人を殺した。
 それが仕事だから、罪悪感などない。
 けれど、殺した相手の恋人に反撃されて血を流しながら雨に降られ、歩いていたら、何故か虚しくなった。

 計算を終えたユンファに、言われた通りの金を払いながら、ヘイドはぼんやりと思った。
 何が正しいのか、迷うことがあるなんて。
「毎度あり。またおいで。」
 古い銭湯のシャワーを浴びた体は、先程と違って温まっていた。

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