忍者ブログ
エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
染井六郎
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R
[27] [26] [25] [24] [23] [22] [21] [20] [19] [18] [17
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 その男の名前は、キリシュといった。
「キルシェ?」
「キリシュ・入間だ。」
 真剣な顔でいう彼は、見たところ栄養失調気味で顔色が悪い。ろくに食べていないのがありありと見て分かった。
「キリシェ?」
「キリシュ、だ。覚えられないなら、キーリでいい。」
 どうしても正しい発音ができずに何度もやりとりをした後、キリシュ、キーリは諦めた口調で言う。
「そうかい。じゃあ、キーリ。どうしても、住み込みで働きたいって言うんだね?」
 ユンファの言葉にキーリはこくりと頷いた。
 家賃滞納で部屋を追い出され、住む場所もなく、ふらふらと入り込んできてしまった異邦人街。数日入っていなかった風呂に入って、薄汚い格好だけでもどうにかしようとくぐった銭湯ののれんだったが、キーリは銭湯に払う小銭すら持っていなかったのだった。
 追い出そうとするユンファに、キーリは必死に食い下がる。
 この汚い格好では仕事にいけないこと、住む場所がないこと、仕事にいけば金は払えること、できればまかない付きで住み込みさせて働かせて欲しいと最終的に言ったのは、もう彼がぎりぎりの状態だったのだろう。倒れそうな顔色になっていた。
「分かったよ、分かった。ちょっと、親父、私、母屋の方に行くから!」
 番台を変わってもらったユンファは、キーリの腕をとって母屋の方に回った。祖父が死んでから使っていない四畳半の部屋が余っているし、何よりも、この男の顔色の悪さは、異能を使うとエネルギー不足に陥るユンファは非常に覚えのあるものだった。
 素早く青椒肉絲と炒飯を作って、雑多とした食卓にキーリをつかせて、どんと目の前に置く。キーリの目がぎらぎらと輝く。
「食べていいよ。」
 お預けを解除された獣のように、がつがつと掻き込むキーリに、奥から母が出てきて「あらあら。」と目を細めた。
 ユンファは捨て子なので、両親とは似ていない。両親は小柄で白い肌に黒髪黒い目だ。
「痩せた子ね。こういう子が、好きだったの、ユンちゃんは?」
「違うよ。今日から住み込みで働いてもらうんだ。なんか、追い出されたんだって。」
「それは気の毒にねぇ。」
 人の良い母はそれだけで納得する。
「よろしく、おねがい、します。」
 キーリは咀嚼しながら、頭を下げた。
「食事代、給料から引くからね。」
 もちろん、そこらへんは、抜け目のないユンファだった。

拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Copyright (C) 2009 Silence or Noisy, All right Resieved.
*Powered by ニンジャブログ *Designed by 小雷飛
忍者ブログ / [PR]