エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。
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その青年には、右の目を通るようにして頬まで傷があった。
だから目を引かれたわけではない。濃い紫色の髪が、黒髪に見えたからでもない。朗らかに笑う様子が、誰かを思い出させたからでもない。
ただ、目障りだと思った。
自分よりもずっと長身の彼が。
「邪魔なんだよ!デカイ体で道を塞ぐんじゃねぇ!」
まず、フェンリルの口から出ていたのは、罵りの言葉だった。急に怒鳴られて、ギルド本部の出入り口付近で空音と話していたフロットは戸惑う表情になる。
「いや、塞いでるつもりはなかったんだが、悪かった。」
真面目に謝られて、ますます腹が立つ。それが、空音が原因だなど、フェンリルはカケラも思っていなかった。
「頭の上から偉そうに物を言うんじゃねぇよ。なんだ?謝れば何でも許されるのか?」
完全なる言いがかりと自分でも分かっているが止められないフェンリルに、空音がきょとんとして二人を交互に見ている。
「フェン、どうしたの?なんか、怖いよ?」
空音の声に、フェンリルは顔を歪めた。
「別に、そういうでかい男が好みなら、一緒にどこにでも出かけるといいさ。」
いつもトレードマークのように着ている赤いパーカーのポケットの中で、飴の包みがかさりと音を立てる。
手に入れられない。
手に入れたくない。
いつだってそうだ。
手に入りそうになると、自分は壊してしまう。
今までだって、好ましいと思う相手がいないわけではなかった。
だが、姉の存在はいつだって、フェンリルの体の一番柔らかな部分に食い込んでいて、外せばただでさえ傷だらけの内面を、ずたずたに切り裂きかねない。
だから、手に入る前に、手を放してしまう。
それが、お互いの幸せなのだ。
一番欲しいものは、いつだって、手に入らないのだから。
ふと、手を握られてフェンリルは我に返った。空音が真剣な表情でフェンリルの片手を握っている。そして、もう片方の手は、青年の手を握っている。
「ボク、よく分かんないけど、喧嘩したら、仲直りをするんだよ。ね。フェンも、フロットも、握手。」
無理矢理に握手をさせられて、フェンリルはようやく青年の顔をはっきりと見た。人の良さそうな優しげな顔立ち。
「フロットね、バク転できるんだって聞いたから、サーカスに誘ってたの。フェンは、フロットがサーカスに入るのは、嫌だったの?」
完全に勘違いしている空音に、フェンリルは一瞬痛みをこらえるような表情をした後、緩く笑った。
「さぁな。バク転なら、俺もできるよ?」
「そうなの、フェン?」
「でも、見世物はごめんだな。」
「えー!フェンもサーカスー!」
甘えた口調になる空音に、フェンリルはようやく我を取り戻しつつあった。まだ手を握らされている青年は、戸惑った表情でフェンリルを見ている。
「俺、あんたに何かしたか?」
「いや、デカイ奴見ると、むかつく体質なの、俺。」
軽く言うと、青年、フロットは顔を顰めた。
「身長は、俺の責任じゃないよ。」
「まぁな。俺の身長も俺の責任じゃないしな。」
もう少し。
もう少し大きかったら。
もう少し強かったら。
あの小さな手を離さずにすんだのだろうか。
「フロットだ。見張りやってる。」
「フェンリルだよ。実戦隊だ。」
名乗りあい、強く手を握りしめてから、二人は手を離した。
「仲直りだね。」
空音が微笑む。
「くぅに、妙なことするなよ?」
そっとフロットに囁くと、納得がいったのかフロットは声を上げて笑い出した。
「あぁ、それで。了解。それにしても、前途多難そうだな。」
「はぁ?俺は、くぅが妙な奴に引っかからないか心配してだな。」
「分かった分かった。」
軽くあしらわれて、フェンリルは憮然としてから、パーカーのポケットに手を突っ込む。指先に飴の包みが触れた。
「くぅ、これ、新しい味の奴。生姜入ってて、体暖まるんだって。」
「生姜!?辛くないの?」
受け取りながら、早速包み紙を剥く空音。ついでとばかりに、フェンリルはフロットに一つ飴を投げた。
「見張り、ご苦労さん。体冷やすなよ。」
「女じゃないんだから、体冷やしても関係ないだろ。」
笑いながら受け取るフロットに、フェンリルは肩をすくめた。傍らで、空音が「からーい!」と涙目になっている。
その傷はいつ付いたのか。
過去を聞ける時、自分の過去も話せるだろうか。
愚かしくも馬鹿らしい、大事な姉のことを。
だから目を引かれたわけではない。濃い紫色の髪が、黒髪に見えたからでもない。朗らかに笑う様子が、誰かを思い出させたからでもない。
ただ、目障りだと思った。
自分よりもずっと長身の彼が。
「邪魔なんだよ!デカイ体で道を塞ぐんじゃねぇ!」
まず、フェンリルの口から出ていたのは、罵りの言葉だった。急に怒鳴られて、ギルド本部の出入り口付近で空音と話していたフロットは戸惑う表情になる。
「いや、塞いでるつもりはなかったんだが、悪かった。」
真面目に謝られて、ますます腹が立つ。それが、空音が原因だなど、フェンリルはカケラも思っていなかった。
「頭の上から偉そうに物を言うんじゃねぇよ。なんだ?謝れば何でも許されるのか?」
完全なる言いがかりと自分でも分かっているが止められないフェンリルに、空音がきょとんとして二人を交互に見ている。
「フェン、どうしたの?なんか、怖いよ?」
空音の声に、フェンリルは顔を歪めた。
「別に、そういうでかい男が好みなら、一緒にどこにでも出かけるといいさ。」
いつもトレードマークのように着ている赤いパーカーのポケットの中で、飴の包みがかさりと音を立てる。
手に入れられない。
手に入れたくない。
いつだってそうだ。
手に入りそうになると、自分は壊してしまう。
今までだって、好ましいと思う相手がいないわけではなかった。
だが、姉の存在はいつだって、フェンリルの体の一番柔らかな部分に食い込んでいて、外せばただでさえ傷だらけの内面を、ずたずたに切り裂きかねない。
だから、手に入る前に、手を放してしまう。
それが、お互いの幸せなのだ。
一番欲しいものは、いつだって、手に入らないのだから。
ふと、手を握られてフェンリルは我に返った。空音が真剣な表情でフェンリルの片手を握っている。そして、もう片方の手は、青年の手を握っている。
「ボク、よく分かんないけど、喧嘩したら、仲直りをするんだよ。ね。フェンも、フロットも、握手。」
無理矢理に握手をさせられて、フェンリルはようやく青年の顔をはっきりと見た。人の良さそうな優しげな顔立ち。
「フロットね、バク転できるんだって聞いたから、サーカスに誘ってたの。フェンは、フロットがサーカスに入るのは、嫌だったの?」
完全に勘違いしている空音に、フェンリルは一瞬痛みをこらえるような表情をした後、緩く笑った。
「さぁな。バク転なら、俺もできるよ?」
「そうなの、フェン?」
「でも、見世物はごめんだな。」
「えー!フェンもサーカスー!」
甘えた口調になる空音に、フェンリルはようやく我を取り戻しつつあった。まだ手を握らされている青年は、戸惑った表情でフェンリルを見ている。
「俺、あんたに何かしたか?」
「いや、デカイ奴見ると、むかつく体質なの、俺。」
軽く言うと、青年、フロットは顔を顰めた。
「身長は、俺の責任じゃないよ。」
「まぁな。俺の身長も俺の責任じゃないしな。」
もう少し。
もう少し大きかったら。
もう少し強かったら。
あの小さな手を離さずにすんだのだろうか。
「フロットだ。見張りやってる。」
「フェンリルだよ。実戦隊だ。」
名乗りあい、強く手を握りしめてから、二人は手を離した。
「仲直りだね。」
空音が微笑む。
「くぅに、妙なことするなよ?」
そっとフロットに囁くと、納得がいったのかフロットは声を上げて笑い出した。
「あぁ、それで。了解。それにしても、前途多難そうだな。」
「はぁ?俺は、くぅが妙な奴に引っかからないか心配してだな。」
「分かった分かった。」
軽くあしらわれて、フェンリルは憮然としてから、パーカーのポケットに手を突っ込む。指先に飴の包みが触れた。
「くぅ、これ、新しい味の奴。生姜入ってて、体暖まるんだって。」
「生姜!?辛くないの?」
受け取りながら、早速包み紙を剥く空音。ついでとばかりに、フェンリルはフロットに一つ飴を投げた。
「見張り、ご苦労さん。体冷やすなよ。」
「女じゃないんだから、体冷やしても関係ないだろ。」
笑いながら受け取るフロットに、フェンリルは肩をすくめた。傍らで、空音が「からーい!」と涙目になっている。
その傷はいつ付いたのか。
過去を聞ける時、自分の過去も話せるだろうか。
愚かしくも馬鹿らしい、大事な姉のことを。
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