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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 ふらりと入った異邦人街で、サーカスが開かれていた。立ち並ぶ出店と、楽しそうな家族連れの姿。天気の良い休日ののどかな昼下がりの風景に、ルリエナはふと足を止めた。
 こういう場所に父はよくルリエナを連れてきてくれた。長い薄水色の髪の美しい父が、水を使った大道芸で子どもたちをわかせるのを何度も見てきた。ルリエナは父よりもウロコを隠す能力が低いので、あんなことはできないが、父の大道芸は見事だったと覚えていた。
「これで最後にしますわ。ダンバイスは口を出しすぎですの。」
「これで最後、これで最後と何度言ったか分からんな。だから太るのだぞ?」
 若い男女の言い争いに、ルリエナが振り返ると、見知った顔があった。確か、同じ運営の医療班の若い二人だったと思われる。虹のような色彩の美しい髪で貴族のような立派な身なりの青年と、少し独特だがこちらも美しいドレスを纏ったピンク色の髪の娘。確か、名前はダンバイスとホンウだったか。運営の医療事務所でも、一緒にいて話しているのを何度も見たことがある。
「わ、わたくしは、太ってなどいませんわ!」
「例え、万が一、そうだとしても、これだけ食べていれば、そのうちに丸々とするのは目に見えている。」
 これから始まるゲームのために、何度か顔を会わせて短い言葉を交わしたことがある二人の言い争いに、思わずルリエナは口を挟んでいた。
「どうしたのかな?えーっと、ダンバイスくんと、ホンウちゃん。」
 名前を呼ぶのは職業柄の癖かもしれない。一人ひとりの患者を物として見ないために、必ず名前を覚えて呼ぶ。それは医者としてルリエナの大事とするところだった。
「なんでも、ありませんわ。ルリエナ様も、サーカスを見に来られたんですか?」
「サーカスを見に来たはずなのに、ホンウが出店から離れずに、アイスクリーム、チョコバナナ、焼きとうもろこしに、今度はたこ焼きを買おうとしているから、肥満の元になると注意を促しているだけのことだ。」
「ダンバイス!ダンバイスだって、サツマイモ揚げに、ポテトフライを食べていたではありませんか。」
 ばらされて慌てるホンウに、ルリエナも慌てた。
「よく食べるのはいいことだと思うよ。若いんだし、そんなに無理をしなくても……。」
「そして、その先は成人病か。良かったな、ルリエナ医師はホンウの味方のようだぞ。」
 激しい嫌味に、ホンウはしゅんとうなだれてしまった。
 うなだれているホンウをどうしていいか分からずに、慌てるルリエナのそばに、サーカスのピエロが寄ってきた。コミカルな動きで、手の平を見せ、何もないことを確認させてから、きゅっとそれを握り、開くと小さな造花が現れる。
 造花を渡されてホンウは顔を上げた。
「あ、ありがとうございます。」
「運営医療班のお三方がお揃いで、楽しそうじゃない。俺も混ぜてよ。」
 にこにこと笑うピエロの声に聞き覚えがあって、ルリエナは呟いた。
「レナートくん?」
 確か運営の監査班にそんな名前の青年がいたはずだ。
「ルリエナせんせと、ダンバイスくんで、ホンウちゃんの取り合い?医療班もほっとけないね。」
 心底楽しんでいる口調のレナートに、ルリエナは首を振る。
「ま、まさか。違うよ。偶然会っただけ。レナートくんはここで働いてるの?」
「そう。俺は楽しいことが大好きだから、子どもたちを楽しませてあげてるんだよ。」
 どこからか手の平に乗る大きさのボールを取り出し、ぽんぽんと放り投げて三つ同時にとったりするレナートの周囲に、観客が集まってくる。
「すごいですわ。」
 目を輝かせるホンウに、ルリエナもレナートに拍手を贈った。
「ルリエナせんせが偶然出会ったってことは、ホンウちゃんとダンバイスくんはデートだったの?」
 パフォーマンスを終えて興味津々に聞いてくるレナートに、ダンバイスが憮然として答える。
「デートなど冗談ではない。ホンウ一人で歩かせると確実に迷子になる故、仕方なくついてきただけだ。」
 そっけない言い方に、興を削がれたのか、レナートは肩をすくめた。ピエロの化粧と衣装でやっているので、どこかその仕草はコミカルに思える。
「良かったら。」
 そのまま行ってしまいそうなレナートをルリエナが止めた。
「僕、たこ焼きが食べたいんだけど、一人じゃ多すぎるから、レナートくんと、ホンウちゃんと、みんなで食べないかな?」
 仕事中にごめんね、と謝りつつ微笑むルリエナに、ホンウが顔を輝かせる。
「よろしいのですか?」
「こっちがお願いしてるんだけど。」
 喜ぶホンウの姿に、レナートはもう一度肩をすくめてから、言った。
「たこ焼きねぇ。まぁ、いいや。ダンバイスくんには飴ちゃんあげるよ。」
 何もない手を握ると、ぱっと飴が数個現れ、ダンバイスにレナートはそれを降らせた。落とすわけにもいかず、とりあえず、受け取るダンバイス。
「私を子供扱いするな。」
「僕みたいなおじさんからみたら、みんな、若いよ。」
 くすくすと笑いながら、ルリエナはたこ焼きの出店の列に並んだ。

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