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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 マフィアの実戦部隊のシスター・イルマを、ユンファは知らないわけではなかった。
「カウンターでいいですか?」
 居酒屋きょうこつの店員が恐る恐る聞いてくる。店内は賑わいを見せ、厳しい面の店主が黙々と焼鳥を焼いていた。空いている席は二つ。そうなれば、並んで座るしかない。
「あんた、シスターとか呼ばれてる……。」
「えぇ、イルマでいいわ。」
 ユンファが小声で問いかけると、イルマはあっさりと言った。確かユンファよりも年下だったと思いつつ、じっと見つめる彼女の白い額には、線のようなものがある。特に気にすることなく、ユンファは話題を変えた。
「ここは初めてかい?私は常連なんだけど、あんたが来てるのを見たことがなくってね。」
「そうね。初めて来たわ。安くて美味しいって聞いたから。」
 イルマの答えに、ユンファは目を輝かせる。
「あんた、すっごい食べるんだろう?ねぇ、焼き鳥をどっちが多く食べられるか勝負しないかい?負けた方がお勘定を持つってことで。」
 人懐っこいユンファに気圧されたのか、イルマは苦笑した。
「よく知ってるわね。」
「レノリアが詳しくってさ。あ、レノリア知ってるかい?」
「よく働くあの子ね。」
 ワーカーホリックとでも言うべき若いレノリアを思い出すイルマに、ユンファはなぜかもじもじと下を向いた。しかし、すぐにばっと顔を上げる。
「私、ものすごく食べるから、適う奴いなくて、退屈してたんだ。いいだろう?」
 挑戦的なユンファのオレンジの目に、イルマは退屈しのぎにと、頷いた。

「焼き鳥10本セットを10組!」
「私も!」
 食べ終わった串を差す容器が最早用をなしていない。
 次々と二人の胃袋の中に消えていく焼き鳥に、店員が顔を青くしていた。
「それにしても、あのゲームとやらは、面倒くさそうだね。何があるのか、公表もしないで、焦らすだけ焦らして。さっさとやって、さっさとうちが勝てばいいんだよ。」
 もぐもぐと高速で咀嚼しながら呟くユンファに、イルマはほろ酔いでため息をつく。
「次々と人員がかき集められてるけど、誰を信じていいのか分からない状態だしねぇ。」
「新参のメンバーとか私、全然分からないよ!」
 コップ酒を一気に煽るユンファに、イルマも酒で口を湿らす。
「これから、この街はどうなるのかしらね。」
 遠い目をして最後の一串を食べ終わり、次を注文しようとユンファとイルマが同時に手を上げた瞬間、駆け寄ってきた店員が、深々と頭を下げた。
「すみません、もう、材料がなくなって……。」
「はぁ!?勝負がつかないじゃないか!」
「私はまだ食べられるわよ。」
「私だって!」
 余裕の表情のイルマに、同じくまだ余裕のあるユンファ。彼女たちの胃袋に消えた焼き鳥は何百本となっている。
「じゃあ、次は飲み比べに移行するかい?」
 ユンファの言葉に、店員が青くなって店長を見た。厳しい表情で店長が歩み寄ってくる。
「お引取りを。」
 二人は仲良く居酒屋の外へ押し出された。

「もう一軒、行くかい?」
 飲み足りない、食べ足りないユンファがイルマを誘うが、イルマは首を振った。
「やめておくわ。勝敗は、分からない方がいいような気がするから。」
 謎めいたイルマの言葉に、ユンファはきょとんと目を丸くする。
 そして、すぐに笑顔になった。
「うち、銭湯なんだ。今度おいでよ。」
 常備している割引券を渡すと、イルマは一応それを受け取ってポケットにしまう。
「じゃあ、また会うことがあったら。」
「だから、銭湯においでってば。また会うんだよ。チャンスってのは、自分で作るんだ。」
 どれだけ飲んでも酔わないユンファの真っ直ぐな言葉に、イルマは痛みをこらえるように微笑んだ。
 街灯が二人を照らしていた。

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