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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 フェンリルの病室に花束を持った女性が現れたのは、フェンリルが入院して2日目のことだった。ようやく点滴が外れて動きやすくなったものの、肋骨が折れているので、脇腹は常に痛むし、額の傷も激しく動けば開くので安静にと言われていた。
 それでも、今日退院していいと言われたので、帰り支度をしていたところに赤い髪の軍人、アシュレイが現れたのだ。思わず身構えるフェンリル。緩衝地帯の病院なので手荒なことはされないはずだが、連れていかれればどうなるか分からない。
「あー、いたいた。この前の子だ。あの時骨折っちゃったけど、大丈夫?ごめんねぇ、痛かったでしょ?」
 髪を撫でられそうになって、フェンリルは身を引いた。
 なんなのだろう。夜に出会った時とは違い、気の抜けたような明るい笑みにフェンリルは戸惑う。
「げ、ババァ!?」
 さらわれて利用されるのか、拷問されるのか、残りの星を奪いに来たのか、それとも花束に何か仕込んであるのか。
 警戒心いっぱいのフェンリルに、アシュレイは無邪気とも言える表情で目を輝かす。
「あのさぁ、ちょぉっと聞きたいことがあったんだよね……。」
 ジリジリと距離を詰められて、壁際に追い詰められるフェンリル。相手は頭半分以上背が高い。
「な、なんだよ?」
 コルセットで固定しただけの肋骨がぎしぎしと痛む。どうすればこの場から逃げられるのか、フェンリルは必死に計算した。
 しかし、アシュレイの口から出たのは、意外な一言だった。

「小動物って、今、集めること、できる?」

 わくわくと胸踊らせるアシュレイは子どものようで、フェンリルは拍子抜けしてしまう。
「できるけど、病室じゃ駄目だろ。中庭とかなら……うわぁ!?」
 言った瞬間、すくい上げるようにフェンリルをお姫様抱っこして、病室から駆け出すアシュレイ。その足取りの軽さに、フェンリルは内心で恐れおののいた。
 中庭に出たフェンリルは、仕方なく動物を呼ぶ。
「鳥に、猫に、犬に……周囲にいそうなのなら呼べるけど。」
 すでにフェンリルの気配に気付いた鳥がフェンリルの肩や腕に止まり始め、猫や犬たちがぞろぞろと集まり始めていた。
「きゃあああああ!!!!!動物いっぱぁあい!え、これ、すごい!フェンリル君さすが!さっすがぁ!」
 飛び跳ねて笑顔満面で走り寄るアシュレイに、動物たちが怯えて逃げていく。満面の笑顔が徐々にしょんぼりとなって落ち込んでいくのに、フェンリルはため息をついた。
「ほら、来い。いい子だ。」
 逃げずにフェンリルの足元にいたくろぶちの猫を抱き上げ、フェンリルはアシュレイの腕に渡してやる。
「だっこ、していいの?大丈夫なの、この子?」
 ものすごく驚いて恐る恐る手を伸ばすアシュレイの腕に、フェンリルは手を添えた。
「猫は抱き方があるから……ほら、そこに手を入れても逃げられるぞ。」
「え?でも、どこを支えたらいいの?」
「だから、そっちの手を……って、もうちょっと力抜けよ。緊張は伝わるんだからな。」
「だって、こんなに小さくて柔らかい子、力込めたら、死んじゃいそうで……。」
 戦いの時とは全く違うアシュレイの表情に、フェンリルは苦笑する。
 その時。
「フェンに何をしてるの!離れて!」
 退院の手伝いに来てくれるはずだった空音が、病室にいなかったので中庭を覗きに来たのであろう。一昨日フェンリルを痛めつけた軍人の姿に、異能を発動させようと神経を集中させる。
「くぅ!これは違うんだ!」
「フェンを苛めた奴は、許さないんだから!」
 剣呑な空気に、猫がアシュレイの腕から逃げ出す。
「あぁ!猫が逃げる!」
「猫が!猫が!」
 フェンリルとアシュレイの声が重なった。
「抱っこ、したかったのにぃ!」
 ぼろりとアシュレイの目から涙が零れる。その場に座り込んで膝を抱えて声もなく涙を流すアシュレイに、空音も戦意をそがれたようだった。
「猫、好きなの?」
 空音の問いかけに、アシュレイは泣いたまま、こくりと頷く。
「ボク、うさぎが好きなんだ。」
「うさ、ぎも、すき。」
 しゃくりあげながら答えるアシュレイ。
「怖くないから、おいで。」
 手招きするフェンリルに、くろぶちの猫がおずおずと戻ってくる。フェンリルはそれを軽く抱き上げ、アシュレイの膝の上に置いてやった。
 ふわふわの毛の猫は、アシュレイの長い髪にじゃれて、にゃあんと甘えた声を出す。
「だっこ……できた。」
 笑ったアシュレイの目から、最後の大粒の涙が零れた。
「俺、あんた好きじゃないけど、あんたが動物好きなら、また、会ってやってもいいよ?」
 戦闘で殺されかけたのは確かに嫌な思い出だが、あれはゲームのせいであり、ゲームが終わった後、結局は人は人として生きていかなければならない。どの組織が勝ったとしても。
 それならば、いがみ合うのは馬鹿らしいことだ。
 あっさりと言ったフェンリルに、アシュレイはこっくりと頷いた。
「ゲームでは手加減しないよ。」
「望むところだ。」
 言い合う二人に、空音が顔を顰める。
「でも、フェン、負けちゃうよ。この人、強いもん。」
「ここは、嘘でも頑張れとかいうところだろ!」
「だって。」
 アシュレイとフェンリルが二人でいる姿が、なぜか胸に刺さって素直に慣れない空音。
 不穏な空気が去って、またフェンリルの周囲に動物が集まってきていた。

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