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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 静かな昼下がりだった。
 午前中、弟を探し歩き疲れたティーエが診療所に戻ると、ふわふわの銀髪の少年、セレーレが診療所のそばのベンチに座って、帰りを待っていた。
「お帰り、ティーエせんせー。」
 ふにゃりと笑う少年に、ティーエも力なく微笑む。
「ただいま。」

ーーお帰り、ティーエ。

 ふと、弟の声が頭をよぎった。
 15歳までしか知らない、無邪気な少年のフェンリル。
「待っていてくれたんですか?」
「うん、今日はサーカスも休みで。」
 診療所は不衛生なのでと飼っている孔雀を置いてまで来てくれる少年に、ティーエは戸惑いを覚えなくもなかった。無邪気に慕ってくる彼は、弟を思い出させる。13歳まで片時も離れず、ベッドまで一緒だった弟。
「ココア、飲みたいなー。」
 おねだり上手なセレーレに、ティーエは診療所の鍵を開けた。

 暖かいココアで空腹が紛れ、ティーエはようやく気付く。
「セレーレさん、お昼ごはん、食べましたか?」
「んーん。ティーエせんせーと食べようと思って。」
 にっこり笑った姿に、涙が零れそうになった。
「ありがとうございます。」
 一人でいたら食べることも忘れてしまう小さなティーエを気遣ってくれるセレーレ。その柔らかな髪をティーエは優しく撫でた。ふわふわとした感触に、手が震える。

ーーあの子はどこへ行ってしまったの?

 すぅっと頬を伝った透明な雫に、セレーレは瞬きをする。それから、ゆっくりと、ティーエの頬の涙を唇で吸い取った。
「セレーレさん?」
 続いて、瞼にキスが落ちてくる。
 13歳のセレーレはすでにティーエよりも背が高い。
 軽く唇にもキスされて、ティーエは真っ赤になった。
「な、何を。」
「泣いてたら、ママがこうしてくれたんだ。」
 そっと最後に落ちたのは、額へのキス。
 子どものふりをして笑顔をくれる彼は、もしかすると、自分よりも大人なのかもしれないと、ティーエは赤らんだ頬を隠した。



Auf die Hande kust die Achtung,
“手の甲なら、尊敬のキス
Freundschaft auf die offne Stirn,
額の上なら、友情のキス
Auf die Wange Wohlgefallen,
頬の上なら、厚情のキス
Sel'ge Liebe auf den Mund,
唇の上なら、愛情のキス
Aufs geschlosne Aug' die Sehnsucht,
閉じた瞼の上なら、憧憬のキス
In die hohle Hand Verlangen,
掌の上なら、懇願のキス
Arm und Nacken die Begierde,
首と腕なら、欲望のキス
Ubrall sonst die Raserei.
さてそのほかはみな、狂気の沙汰”

Franz Grillparzer,”Kuß” (1819)
フランツ・グリルパルツァー 「接吻」(1819)

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