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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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「あんた!そこのあんた!」
 呼ばれて錦は足を止めた。
「あんたじゃないよ。錦だよ。」
 呟く言葉は酷くけだるい。それもそのはず、彼女は今さっき戦闘を終えて、獣化から元に戻ったばかりで、激しい疲労感に見舞われていたのだ。しかも、獣化したので服は脱げ、素っ裸で血まみれという。
「何をされたんだい?ここいらの連中は女と見ると、酷いことしやがるから。」
 舌打ちしながら紺色のジャケットを脱ごうとしたユンファに、錦は緩々と手を振った。
「いらねェよ。これ、ほとんど、返り血だし。」
「だったら、何もされてないんだね?」
 ジャケットが血で汚れるのも構わず、ユンファは錦をそれで包み、小柄な体を軽々と肩に抱える。
「ちょっと!何しやがるんだよ!?」
 驚きつつも、錦はすぐにぐったりと力を抜いた。抵抗できるほどの体力が残っていない。
 いつもはそんなことはないのだが、幼い日から酷使され続けた体は、そろそろガタがきているのかもしれない。
「いいから、おいで!」
 連れてこられたのは、異邦人街の銭湯だった。
「本当はね、刺青入ってる奴は駄目なんだけど、準備中だし、特別だからね!」
 言い聞かせながら、ユンファはハイソックスを脱いでホットパンツとシャツだけになり、袖まくりをして錦を風呂の安っぽいプラスチックの椅子に座らせる。
 勢いよくお湯をかけられて、錦は悲鳴を上げた。
「あっちィ!!!!!あつッ!あつッ!」
「銭湯ってのは熱いもんなんだよ!」
 少しも手加減せず、ユンファはお湯をぶっかけていく。
「しみるよォ!しみるってば!」
 擦り傷程度しか負っていない彼女でも、熱湯は非常にしみるようだった。
「あんた、きったないねぇ。いつもちゃんと洗ってるのかい?」
 錦の言葉を無視して、石鹸を泡立てるユンファ。湯タオルでごっしごっしと力いっぱいこすられて、錦はもう涙目になっている。
「いてェってば!いてェんだよ!やめろよ!」
「垢がぼろぼろ出てくるじゃないか。全く、いつも、どうやって洗ってるんだか。」
 ざーっと刺青の入った背中を流して、髪を洗おうとしてユンファの手が一瞬止まった。濡れた黒髪から覗くはずの左耳が欠損している。
 けれど、錦から言い出さない限りそれに触れる気はなく、ユンファはそのまま作業を続けた。ごしごしと現れる頭。
「シャンプーの泡が立たないじゃないか。こりゃ二度洗いだね。」
 一度では洗い落しきれなかった汚れを二度目ですっきりと落とし、ユンファは垢剥けて真っ赤になっている錦を熱い湯船に突っ込んだ。
「あっちィよ!ちょっと、お前!」
「お前じゃなくて、ユンファ。私はユンファ。あんたは錦なんだろう?」
 ものすごい目で睨まれても怯まないユンファに、拍子抜けしたように錦は目を丸くした。そして、笑いだす。
「ユンファ、か。お前、本当に物好きだねェ。」
 笑う錦に、ユンファもにっこりとする。
「元気、出ただろ?体が温まると、元気になるものさ。」
 そういえば先ほどまでの倦怠感が薄れていることに気付いて錦は、額に手をやった。
 まだ大丈夫かもしれない。そんなことを考え始めた自分に、錦は驚いていた。
 風呂から上がった錦に、ユンファがコーヒー牛乳を差し出す。それから、まだ使っていない風情の下着とシャツとホットパンツをそっと置いた。
「私のだからでかいだろうけど、裸で帰られちゃ困るんでね。」
「お前みたいな物好きに会ったのは、久しぶりだよ。」
 苦笑しながらぶかぶかのそれを身につける錦は、下着だけがサイズがぴったりなことに気付いた。恐らく、錦が湯船に浸かっている間にユンファが買ってきたのだろう。
「別に感謝されたくてやったわけじゃないからね。またここに来て、今度はちゃんと金を払って風呂に入ること。じゃないと、あんた、汚いよ、ホント。」
 汚いと言われて錦は小首を傾げた。無頓着な錦は清潔というものをそれほど真剣に考えていない。
「金は、払いにくるさ。」
「風呂にも入るんだ。」
「いいのかい、刺青?」
 言い返す錦に、ユンファはにっと笑った。
「準備中に来な。」
 そこまで言われては仕方なく、錦はコーヒー牛乳を飲みほした。

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