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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 しっかりと片腕にギブスを巻いて固定している客が男湯に来た時、入れるのかとユンファは少し気にかけたが、少し遅れて友達らしき背丈格好のよく似た青年が入ってきたので声をかけなかった。
 二人は慣れた様子でユンファに金を払う。毎日のことなのであまりよく見てもいないが、常連なのかもしれない。
 そんなことを思いながらユンファは受け取った、体温の残る小銭の数を何度も数え直した。

 ファウストのギブスが邪魔で服の脱ぎ着がしにくいのを、環が手伝う。それは別に日常のことだった。銭湯の脱衣所で環がファウストのしゃつを脱がせていると、常連のよぼよぼとした爺さんたちが「仲良しの兄弟だの。」「双子かね?」などと声をかけてくる。
 髪の色は水色にも見える薄緑の環と、黒のファウストだが、背丈格好はどことなく似ていて、年寄りには兄弟にも見えるのだろう。
「双子…?」
 剣呑な声が漏れたのは、銭湯の入り口、靴を脱ぐスペースからだった。
「どこが双子だよ。全然似てない。てか、てめぇら、ホモなの?ベタベタベタベタ、くっついて。気色悪い。一緒の湯に入らないで欲しいね。病気でもうつったらどうしてくれるんだ。」
 一気に吐き捨てたのは、環とファウストと同じ安アパートに住んでいる、時々見かける人物だった。
「なんだよ、うるせぇな、チビ!」
 決して環も背が高くないが、更に小柄な灰色の髪に琥珀色の目の青年に言い捨てると、彼は明らかに激昂した。
「だれが、チビだ、誰が!俺はフェンリルっていう名前があるんだよ!アパートでも銭湯でも、ベタベタベタベタくっつきまわってやがって、気持ち悪いんだよ!」
 双子、仲がいい、そんな単語に加えて、チビが最終的にむかつき度をマックスにした様子のフェンリル。
「突っかかってくる奴の方が悪いんだって。馬鹿馬鹿しい。相手にしなくていいよ、環。」
 あっさりというファウストにフェンリルはずかずかと近付いた。
「あんたら、マフィアだろう?最低の人間だ。闇の仕事に手を染めてる。俺は、あんたらみたいなのに、街を仕切らせたりしない。そのうち、勝つのは俺だ。」
 俺には守りたいものがあるから。
 決して触れられなくても、それでも、大事に大事にしたいものがあるから。
 飲み込んだ言葉は環とファウストには届かない。

 刹那。

 がつんっ!
 フェンリルの頭にユンファの拳が降ってきていた。
「銭湯での喧嘩はご法度だよ!施設壊したら、割り増し請求するからね!」
「いてぇじゃねぇか、このデカ黒女!」
「チビっこ。アソコまで貧相だって言いふらされたかなかったら、黙って風呂していれ!」
 即座に言い返したユンファに、舌打ちしてもそもそと脱ぎ始めるフェンリル。その目がぎらぎらとファウストと環を睨んでいる。
「気にしないでおくれ。それより、怪我、大丈夫なのかい?よかったら、これ、使いなよ。湯にギブスが触れちゃ駄目だからね。」
 大きなビニール袋を手渡すユンファに、ファウストが軽く頭を下げ、環が「どうも。」と素っ気なく言う。

 銭湯での喧嘩はご法度です!

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 その色彩は、体の奥底の嫌な記憶を引っ掻いた。
「でかい体で邪魔なんだよ!」
 考えるより先に足が動いて、フェンリルは自分よりはるかに長身の青年の脛を蹴飛ばしていた。ギルドの本部の食堂は昼をかなり過ぎていて、空いていた。そんな中、ぼーっと突っ立っている黒髪に茶色の目の優しげな顔立ちの青年は、フェンリルが座ろうと思っていたいつもの隅の席に向かうのにとても邪魔だったのだ。
 丼を乗せたトレイを持ったまま睨みつけるフェンリルに、蹴られたことに抗議するでもなく「す、すみません。」と謝ってしまう彼。その姿はますます誰かを思い出させる。
 自分の代わりに何でも謝ってしまう姉。欲しいものは先回りして、自分に譲ってくれた姉。
「あんた、座らないのかよ?」
 苛立ちながら強い口調で言うと、びくびくしながら、青年はフェンリルの斜め前の席に座った。どうやら、彼も隅のテーブルがお気に入りのようだ。
「フェンリル、さんですよね?」
「そうだけど、なにか?」
 野郎にくれてやる笑顔はないとばかりに仏頂面で答えると、青年はますます縮こまる。
「公園で、野良猫とか、野鳥とかと一緒にいたから…。」
 もそもそとサンドイッチを食べ始めた青年に、フェンリルはため息をついた。
「ちょっと知りたいことがあったから、聞いてただけだよ。」
 それからは、がつがつとフェンリルが食べる音と、青年がもそもそと咀嚼する音だけが響く。
 先に食べ終わって立ち上がりかけたフェンリルだったが、パーカーのポケットに入っていた公園で出会った少女にもらった飴の存在に気付き、ぽんとそれを青年に投げてよこす。透明な袋に包まれた桃色の飴。
「貰い物だけど、やる。蹴って悪かった。」
 癖のない艶やかな黒髪。
 ティーエ。
 フェンリルは正面きって会うことの出来ない姉を思った。

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 それは、明らかに尻尾だった。もふもふとした、狼を思わせるような尻尾。
 昔、飼っていた犬が、そんな尻尾だったと思った瞬間に、ユンファは声をかけていた。
 昼下がりの公園は、鳩が忙しなく地面をつついている。
「あんた、ちょっと。」
 そこで、彼女は自分がしていることはナンパではないのかと、ふと思い返す。いや、一応自分は女性なので逆ナンパというやつか。
 考え込んでいると、相手の方がじろりと睨んできた。長身で筋肉質。女にしては大柄で長身なユンファだが、彼に敵う気はしない。
「なんだよ?」
「いい尻尾だと思って。」
 物怖じすることなく、殺される時は何をしても殺されるのだと分かっているユンファは、素直な感想を口にした。
「うちの非常食もそんな尻尾だった。八年前に死んだけど。」
「非常食?」
「飼ってた犬の名前だよ。」
 胸を張って言うと、さすがに唖然としたのか、相手が黙り込んだのでユンファは一応説明した。非常食はその責務を全うしたのではなく、ちゃんと老衰で死んだこと。自分たち家族が非常食をとても愛していたこと。けれど、何かあった時には、その犬はやはり非常食になっていたであろうこと。
「仕方ないんだ。うちはずっと貧乏だったから。」
 潔く言うユンファに、男は「そうか。」とだけ言った。
「あんたがそんなんじゃなかったら、うちの銭湯に誘うんだけど、毛がねぇ。」
 身体的特徴をあげつらうようにとられそうなことでも、はっきりと言う彼女に男は顔をしかめた。
「銭湯なんて冗談じゃない。じろじろ見られるし。」
「だろうね。いい尻尾だから。」
「いや、そういう意味じゃなくて…。」
 獣人として見られることのデメリットを説いても理解しないことを悟ったのか、男は口を閉じた。
「あんた、名前を聞いてもいいかい?私は客商売だから、人の名前を把握しておきたくてね。このままじゃ、非常食で覚えそうだ。」
「俺は食えんぞ。…ファンクだ。あんたは?」
「ユンファだよ。いい尻尾を見せてもらった礼にそのうち、食事にでも行こう。」
 公園のベンチから立ち上がり、昼休憩から研究室に戻るユンファだが、ふと足を止めてファンクを振り返った。
「もちろん、割り勘だからね!」
 ファンクは振り返って微妙な顔をしたが、何も言わなかった。
「あの尻尾、どこかに売ってないもんかねぇ。格安で。」
 ユンファのつぶやきは、鳩の羽ばたきにかき消された。

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 その客を見た瞬間、ユンファは彼女を凝視してしまった。ファンタジー小説からはみ出したのかと疑いたくなる不可思議な格好に、長い長い白い髪。銀ではなく白、である。そのくせ、年は明らかにユンファより若かった。
 視線に気づいたようで、料金を手渡しながら、彼女もユンファを見てくる。
「あんた…名前は?」
「どうして名前を言わなければいけないわけ?名前を言わないと風呂にいれないような、そんな大そうな場所なの?」
 皮肉たっぷりに言われて、ユンファはため息をつく。
「いや、初めての顔だから。私はユンファ。リョン・ユンファ。」
 そこで言葉を切ったユンファに、彼女は次の言葉を待つように長い髪で片方かくれた目をユンファから外さなかった。
「あんた、髪は結ぶんだよ。絶対に湯舟に浸けないように。風呂用のゴムは自販機で売ってるから。」
 ユンファが言いたかったのは、それだけ。長い髪が湯舟につくとお湯の汚れが激しいのだ。そうなれば、お湯の入れ替えもしなければいけなくなる。
「分かった。」
 真剣なユンファの様子に気圧されたのか、素っ気ないながらも彼女は返事をしてくれた。それならいいと、ユンファはもう彼女から目を外す。
「ニルチェニア。」
「え?」
「名前。」
 もう興味なさそうに服を脱いでいる彼女、ニルチェニアの名前をユンファはしっかりと覚えた。

 銭湯では、湯舟に髪がつかないようにしましょう。

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 仕事を終えたレノリアが疲れた様相で通りを歩いてくるのに気付いて、ユンファは軽く片手を上げて声をかけた。
「レノリアじゃないか。いいところに来たね。今、ちょうどいい時間なんだよ。」
 時間外の仕事だったので、時刻は夜明けに近くなっているのに、いい時間とはどういうことだろうと足を止めたレノリアを、ユンファは馴れ馴れしく自分の銭湯に連れて行く。異邦人街の中でも低所得者層の住む区域の銭湯は、薄汚く、年季が入っている。
「家に帰って休みたいんだけど。」
 文句をいうわけではないが、僅かならぬ疲れを感じていたレノリアがそう主張すると、ユンファはひょうきんに目を丸くした。
「だからこそ、だよ。」
 銭湯にはまだ準備中の札がかかっている。この時間にくる客は少ないので、今のうちの掃除をしてしまうのだろう。掃除されたばかりの銭湯は、古いながらも清潔で、壁にヒビが入っているがそれなりに見えた。
「風呂に入っていきなさいって、ことね。」
 諦めた口調のレノリアに、ユンファはにこりと微笑んだ。
「特別なんだからね。レノリアだから、特別に招待してあげるんだよ。いつもは、私が一人占めするんだから。」
 銭湯の娘として、広い風呂を一人占めするのが日課であるらしいユンファは何故かレノリアに特別を強調する。
「私、何かあなたにしたかしら?」
 服を脱ぎながら問いかけて来たレノリアに、ユンファはぽつりと呟いた。
「自販機でお金が足りなかった時に、ジュース買ってくれたでしょ、一昨日。あの時、力使って、すっごい低血糖だったんだ。倒れそうなくらい。だから……いいから、浴びて行ってよ。」
 少し照れた風情に彼女が、確かに一昨日ものすごい悪い顔色で自販機の前で座り込んでいたのを思い出し、そうだったのかと納得するレノリア。
「でも、ただじゃないからね!」
 そこらへんは、抜け目のない彼女が、今後、レノリアに好意的な様子を見せるのは、まさに、餌付けされた犬状態であった。

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