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エデンの鍵に関する情報を置いていくブログ。 時に短編小説もあるかも?
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 天狼(ティエンラン)こと、フェンリルの恋は生まれた時から始まっていた。
 とにかくフェンリルは、一緒に生まれた双子の姉が好きで好きでたまらなかった。
 幼少期は一緒にトイレに入っても怒られなかったのに、学校に入るとトイレが別になっていることにショックを受け、泣いたこともあった。
 理不尽だと思った。
 姉と自分は一緒に生まれたのだからずっと一緒でないとおかしいと思っていたのだ。
 それが何か違うと思い始めたのはいつ頃からだろうか。
 11歳の時、ほとんど変わらなかった背丈が、フェンリルの方が明らかに高くなった。
 姉、天李(ティエンリー)こと、ティーエは、幼い時に絵本で読んだ北の国の神話のフェンリルと、あの時と変わらぬ高く甘い声で呼ぶのに、フェンリルの声はかすれて低くなっていく。
 13歳で部屋が別れた時に、フェンリルは悟った。
 姉と添い遂げることはできないのだと。
 そのことを正直に話すと、両親は泣いたが、15歳で義務教育が終わるとフェンリルを決まった場所に住むことと、決まった仕事につくことを条件に、一人暮らしをさせてくれた。そして、姉が近寄らないようにしてくれた。

 それなのに。
 ティーエのそばで監視させている雀が、異変を知らせたのは、あの告知の数日後だった。

 勝利した組織に街の支配権を与えるという「主」の告知。それを聞いた瞬間、フェンリルは姉の姿が頭をよぎった。
 ものすごくとろいくせに必死で努力して、ストレートで医大に入り、順調に医者への道を進んでいるというティーエ。彼女の平和を願うならば何をすべきか。
 フェンリルは迷わず、ギルドの門を叩いた。

 それなのに。
 ティーエは自分がマフィアに入ったと思い込んで、異邦人街に飛び込んで行ったというのだ。
 焦ったフェンリルが細々した雑事を終えて駆けつけた時には、ティーエは異邦人街で診療所を任されていた。
 あまりのことに涙すら出てきそうになりながら、フェンリルは諦めて、診療所近くの国士無荘という怪しげな安アパートに部屋を借りる。
 毎日窓から見つめるティーエの姿。
 変わらず姉は一生懸命で、小動物のように可愛かった。
 ふと、机に伏して寝ている姉に覆いかぶさるように、黒い服の男が窓を閉める。カーテンまでも閉めるその男と一瞬目があった気がして、フェンリルは奥歯を噛み締めた。

 あの男は、不幸にしてやる。

 後日、道端で見つけたその男の回りを、カラスを呼び寄せてつつき回らせ、苛めてやっても、それほど堪えていそうに見えない相手に、フェンリルはリベンジを誓うのだった。


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 弟が家を出たのは15歳の時だった。
 天李(ティエンリー)こと、ティーエにとって、弟の天狼(ティエンラン)ことフェンリルは、生まれた時から片時も離れたことのない半身のような存在だった。13歳まで部屋も同じで、二段ベッドの上にティーエ、下にフェンリルが眠っていた。北の国の神話から、天狼をフェンリルと呼び始めたのもティーエだった。
 義務教育を終えて、大学に進むかと問われて、ティーエは医者になりたかったので当然、是と答えた。フェンリルは、否と答えた。
 フェンリルは独立して一人で働き、暮らしたいと言い出したのだ。
 父は貿易関係の仕事で、母は教師。ごく普通の中流家庭に生まれた双子の姉弟。ティーエは当然、フェンリルが大学に行くのだと信じていたし、両親もそうだった。しかし、両親とよく話しあった結果として、フェンリルは一人で家を出てしまった。
 部屋が別々になった13歳の時から、なんとなく、フェンリルが変わったことにはティーエも気づいていた。学校をサボったり、授業中に抜け出したり、時に悪い連中と付き合ったり。そのたびにティーエはフェンリルを学校に戻そうと必死に追いかけた。
 卒業の頃にはフェンリルが落ち着いていたので、すっかり安心していたのだが、まさか家を出てしまうなんて思いもしなかった。

 ティーエは半身を失って、一人になった。

 それでも、小さな体でティーエは医学部に進み、実地研修にまでこぎつけた。
 できるだけフェンリルのことはそっとしておいてあげようと思っていた。彼は彼なりに幸せに暮らしているだろうと。
 そんな時だったのだ。

 あのゲームの始まりの噂。

 軍とギルドとマフィアが動き出すという噂が街中に流れ、人々が慌ただしく動き出した中央街で、ティーエは呆然と立ち尽くす。
 皮肉屋で、最終的には毒舌しか吐かなくなった弟。
「絶対、マフィア……。」
 病院の休憩室でパンを片手にぽつりと呟いた言葉に、同じ学生がきょとんと目を丸くする。
「マフィアがどうか、したのか?」
「フェンリルは絶対マフィアにいます!あの子、性格が悪いから!」
 その学生と両親が止めるのも聞かず、その日、ティーエは休学届けを出した。


 異邦人街に入り込んだ瞬間、聞こえた銃声に、足が止まるよりも先にティーエは駆け出していた。弟が撃たれたかもしれない。
 もしも、フェンリルだったら絶対に助けないといけない。
 悪ぶっていても、本当は優しいいい子なのだから。
 そういう姉の勝手な思い込みが嫌で弟が家を出たなど、彼女は知るはずもない。
「大丈夫ですか、フェンリル!お姉ちゃんが絶対に助けてあげますから!」
 駆け寄ってまず覗き込んだ傷口は、見事な銃創だったが、ティーエは太ももに打ち込まれた弾を不可視の手で軽く取り除き、傷口に指を突っ込んで直接圧迫法で止血した。
 そして、顔を見る。
「……誰、ですか?」
「いや、あんたこそ、誰?」
 撃たれたにしては拍子抜けするほど普通の声で対応するその優男は、ヘイリーと名乗った。
「医大生なんだ。それで、的確な処置ができたんだね。」
 騙した女に撃たれたという間抜けなマフィアは、ティーエがフェンリルのことを聞くのに、「いいこいいこ」とばかりに頭を撫でてきた。
「フェンリルは意地悪で性格が悪いから、絶対にマフィアなんです。」
「うんうん、そうだね。ところで、病院がなくて、俺みたいに撃たれたら困っちゃう人がここにはたくさんいるんだけど、助けてくれない?」
 ヘイリーの目を見ていると否と言えず、ティーエは黙り込んでしまう。決して彼が好きなわけではない。恋心など、鈍いティーエは誰に対しても抱いたことはなかった。
 ただ、困っている、助けてと言われると、断れないのだ。
 その後、色んな怪我人が訪れるようになって、ティーエはいつの間にか診療所を一つ任されるようになってしまった。
 141センチの小さな無免許医の弟探しは、前途多難である。


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